【農業に生きる】農村地域に生きる「誇り」と「外部交流・触発」、そして「地域の主体者」の自覚が農村の再生ポイント。

 日本有数の農業県である茨城県。
 第一産物の北限南が交差して、豊穣の恵みが、ほぼ平坦で災害の少ない茨城県民を潤している。
 不足感もないが、特別な満足感も発せられない豊かさが、もし茨城の農林水産業を現状維持させているとしたら本当にもったいないことだ。
 私は茨城県県南に住んで居るから、本当の県北地域の実情を知らないのかもしれない。だからこそ、下記の記事が気になります。
 その中で、あらためて「身近な地域の魅力を発見し、誇りを取り戻す」と地域再生は、ずっと私たちの命題として検討され続けている。
 以下は、「農山村は消滅しない」の著者である明治大学農学部教授 小田切徳美さんのインタビュー記事です。
 問い
 少子高齢社会が進行する中、「限界集落」「地方消滅」といった言葉が飛び交う昨今、多くの人々が不安を抱えているように感じられてならない。その中で昨年末、小田切徳美さんが出版した『農山村は消滅しない』(岩波新書)は、そのタイトルだけでも希望を感じた人が多いことだろう。「地域再生」をめぐる現状から聞いた。
 小田切教授
 農山村の多くは、1960年代から過疎化が進み始め、80年代からは空き家や農地放棄の増加、さらに90年代ごろからは地域・集落機能の低下など、人・土地・ムラの「三つの空洞化」が進んできたことは確かです。
 人口減少社会が進む近年は、これらの空洞化が中山間地域のみならず平地にまで広がる「里下り現象」が進行している。それでも、農山村の各地で「地域再生」への努力が続けられる中で、昨年来、「地方消滅」というネガティブな言葉が盛んに言われるようになった。これには、地方に危機意識を持たせて再生への努力を促す狙いがあったのかもしれないが、効果は薄かったように思います。
 むしろ「消滅論の副作用」として、先ほどの「三つの空洞化」の根底に当たる、人が地域に住み続ける意味を見失わせることにつながった。いわば地域に対する「誇りの空洞化」までも巻き起こし、人々の諦めの心や外部への依存心を増長してしまったのが現状だと思います。
 問い
 「地域再生」といっても、そこに住む人々の気持ちを無視して、外から分析・評論するだけでは意味がない。では、地域で揺らいだ「誇りの再建」を成し遂げるにはどうしたらよいのだろうか。
 小田切教授
 まず大事なのは、地域の人自身が「地域の宝」になかなか気付いていないことです。
 例えば、高知の四万十川流域の農家レストランに「椎茸のたたき」という絶品の人気メニューがあるのですが、地域のお母さんたちは“こんな田舎料理など売れない”と思っていた。そういった場合は、都市農村交流で来た外部の人がその魅力を発見するなど、「交流の鏡効果」といわれるように外の視点を積極的に取り入れることが大変に有効です。
 しかし、もちろん地域からの内発的な発見も重要です。
 特に、「地域づくりワークショップ」といって、住民自らが地域を点検し、あらためて気付いた資源や魅力、課題などを地図上に書き込み、皆でそれを見ながら、地域再生のビジョンをつくってみると大きな効果があります。
 
 地域の現場には、四季折々の自然だったり、それをずっと守り育ててきた歴史や文化といった“汗と涙のストーリー”が必ずあります。その物語を“宝探し”のように内発的に見つけ出すことで、地域の内外の人の心を動かす魅力的な地域づくりにつなげることができます。
 問い
 小田切さんは、農山村再生には外部の力を取り入れることも不可欠であり、最終的に地域のことは住民たちで決める「当事者意識」があるかどうかが重要だと指摘。その点でも、11年前の新潟県中越地震からの集落復興が多くの教訓を示しているという。
 小田切教授  
 中越地震の時、「補助金」やコンサルタントなどを短期間で投入し、外来的復興を押し付けるような支援もありましたが、地域力はいったんは「V字型回復」を遂げたように見えても、すぐにまた下がってしまうということが生じました。
 他方で、多くの若いボランティアや復興支援員が「補助人」という形で2、3年をかけて、被災者を見守り、寄り添いながら、お祭りやカラオケ大会などを開催するといった「小さな成功体験」を住民と一緒に積み上げた集落もあった。

 そこでは地域の人々も「当事者意識」を持ち始めて、諦めや依存心といった心の中の“空洞”が一つずつつぶれていき、ある時、口々に「この村を残したい」と語り始め、確かな復興へと動き出したのです。

 この過程は、長い年月をかけた“鍋底の緩やかな曲線”を描く「U字型回復」であった。さらに、専門家ではない若者が「補助人」として、被災者に寄り添ったことが大きな力を発揮しました。
 内閣府の調査(2014年)によると、20代男性の5割近くが農山漁村に定住願望があると答えているように、近年、若い世代を中心に田園回帰傾向は強まっているといえる。
 田園回帰を強めたきっかけの一つが、先の中越地震の際の経験を一つのモデルとして2009年にスタートした「地域おこし協力隊」です。
 都市部から農山漁村部に住民票を移して地域のサポートをするかわりに、年間200万円を上限に収入も得られる制度で、昨年末時点で1500人に達し、どんどん増えている。注目すべきは、協力隊経験者のうち6割が、その後も定住し、一部の人たちは現地で起業しているということです。
 さらに、3・11「東日本大震災」以降、多くの人々がライフスタイルや生き方を見直し始めたことが大きいと思います。近年、「若者が海外に行かない」と内向き志向を指摘する傾向がありますが、そうではない。今の若者にとっては、「農山村の空洞化」という状況を目の当たりにして、むしろ足元の国内の農村にこそ、何か挑戦し、貢献できることがあるという考え方が広がっているのではないでしょうか。
 そういった意味でも地域再生の可能性は非常に高まっていると考えています。
 問い 
 最後にこれからの都市と農村のあるべき方向性について聞いた。
 小田切教授  
 例えば、世界一の少子高齢社会が進む日本で、農山村での子どもの出生率が比較的高いことは注目に値します。
 また地方は再生可能エネルギーの蓄積の場であったり、都市部が大災害に見舞われた際のバックアップ機能を果たす可能性もある。新しいライフスタイルやビジネスモデルも農山村でこそ生まれてきている。そういう状況を考えれば、都市と農村が不毛な対立をするのではなく、両者の共生・共存関係が生まれることによって、それぞれの可能性と多様性が確保されるという国民的な合意が形成される必要があると思います。
 都市や農村に限らず重要なのは、身の回りの小さいことに地域の魅力を再発見し、地域に生きる意味や誇りを取り戻していくこと。とともに、外部との交流や触発を絶やさずに、共生の地域づくりの主体者になっていくことではないでしょうか。
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■プロフィル
 おだぎり・とくみ 1959年生まれ。農政調査委員会専門調査員、高崎経済大学助教授、東京大学大学院助教授などを経て、現在、明治大学農学部教授を務める。専門は農村政策論。著書に『農山村再生 「限界集落」問題を超えて』『農山村は消滅しない』(ともに岩波書店)など多数。

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