各地で増加し続ける空き家。新築と中古住宅のバランスの悪さは、地域社会の形成にも大きな影響があります。
一世代ごとに町が盛衰していくとすれば、必ず残された過疎住宅に大きな課題が発生します。ましてや人口減少時代を迎えるとすればなおさらです。
私自身が、銀行時代に住宅ローン専門部門にいたことを考えれば複雑な思いもあります。また、地域包括ケアシステムが「住まい」を中心に廻るものとすれば「空き家」を見逃すことはできません。
日本の住宅が木造で、20年を超えて住宅に耐えうるものである必要もあると思います。日本の自然環境と地勢に根がした「空き家」対策を模索したいと思います。
以下は、示唆的な内容の鼎談です。どうぞご覧ください。
てい談 どうする“空き家列島・日本”
公明新聞:2014年9月13日(土)付
富士通総研 上席主任研究員 米山秀隆氏
不動産コンサルタント 長嶋修氏
公明党空き家対策プロジェクトチーム座長(衆院議員) 伊藤渉氏
米山 中古住宅活用へ抜本対策を
長嶋 住宅総量の目標定めるべき
伊藤 特別措置法の制定をめざす
高齢化や人口減少に伴い、放置されたまま老朽化する「空き家」が急増し、大きな社会問題になっています。そこで米山秀隆・富士通総研上席主任研究員と不動産コンサルタントの長嶋修氏、公明党空き家対策プロジェクトチーム(PT)座長の伊藤渉・衆院議員(党国土交通部会長)の3人に、対策の在り方などを語り合ってもらいました。
なぜ増え続けているのか
伊藤
総務省の調査では、昨年10月1日現在で全国の空き家数は820万戸に上り、総住宅数に占める割合も13.5%と、いずれも過去最高でした【グラフ参照】。
自治体の対策には限界もあります。そこで昨年10月、公明党はPTを立ち上げ、新法制定を含む抜本的な対策について議論を進めてきました。今秋の臨時国会に与党として空き家対策に関する特別措置法(特措法)案を提出し、成立させたいと思っています。
長嶋
戦後の住宅事情を振り返ると、高度成長期は住宅が圧倒的に不足していました。そこで新築住宅を造り続け、そのことが日本経済を押し上げることにもつながりました。1968年の時点で総住宅数が総世帯数を上回りましたが、バブル崩壊後の90年代以降も新築建設は続いています。
この間、空き家が少しずつ潜在的に増えていました。このままのペースで行けば、30年後には空き家率が4割を超えるというリポートもあります。
伊藤
即効性のある景気対策として、新築建設に傾斜しすぎて、住宅政策全体のバランスを見直すタイミングを失ってしまった感もあります。
全国の空き家数と空き家率
米山
過去に成功してきた政策が裏目に出て、空き家の増加に歯止めが掛からなくなっているのです。例えば、固定資産税の住宅用地に対する特例措置です。これは、住宅が立つ土地の固定資産税を最大で更地の6分の1に軽減するものです。
老朽化した空き家でも建っていれば税負担が軽くなるため、「撤去しないでおこう」という心理が働いてしまいます。都市部でもかなり郊外まで住宅開発が進みましたが、人口が減少するにつれ、郊外など不便な地域で空き家が目立ってきました。
「量」から「質」へ政策転換したが
伊藤
私が衆院議員に初当選した2005年当時、ようやく住宅の「量」より「質」に関心が持たれ始めたころでした。
住まいの質の向上へと住宅政策を転換する「住生活基本法」(06年成立)や、障がい者や高齢者が安心して賃貸住宅を借りられるようにした「住宅セーフティネット法」(07年成立)の制定に、私自身も携わってきました。
長嶋
住生活基本法の成立に伴い、戦後約40年間にわたって大量供給を強力に推し進めてきた「住宅建設計画法」が廃止されました。
これは大きな政策転換でしたが、住生活基本法はあくまで基本理念を定めたものです。具体的な政策が出てくるようになったのは、ここ最近ではないでしょうか。
そもそも日本の住宅産業界は新築中心に構成されています。今、検討されている特措法案のように、空き家、つまり中古住宅の撤去に加えて利活用にも目が向くようになったのは、画期的です。
米山
国土交通省が12年に「中古住宅・リフォームトータルプラン」を発表しました。中古住宅流通・リフォーム市場の環境整備を進め、市場規模の倍増をめざすとしていますが、新築との両にらみの政策です。
新築住宅を好む日本人に対して方向転換を促すには物足りず、もっと思い切ったインセンティブ(誘因)を与える政策が必要ではないでしょうか。
伊藤
少子高齢化や人口減少の進展で成熟社会へと移行する中、“味のある中古住宅”が評価される世の中にしなければなりません。
グランドプリンスホテル赤坂(旧赤坂プリンスホテル)が昨年取り壊された際、外国の方々から「なぜ、歴史のある建物を壊すのか」と惜しむ声がたくさん聞かれました。時代の風雪に耐えてきた建築物へのまなざしの温かさを感じました。
長嶋
木造中古住宅は約25年で建物部分の価値を「ゼロ」と見なす慣行が、日本にはあります。中古住宅の価値を測る手法がなく、画一的に「25年」としてきたのです。中古住宅の購入に二の足を踏む人が多いのも当然です。それを解決しようと始めたのが、私どもの住宅診断サービスです。
国交省の資料では、取り壊された住宅の平均築年数は、米国がおよそ70年、英国が80年以上です。日本の設計、施工は世界レベルにあり、点検やメンテナンス(維持)をきちんと施せば、50年あるいは100年だって持つ場合もあります。
求められる“まちづくりの視点”
伊藤
空き家の問題は、今後のまちづくりのキーワードです。今年8月に施行された改正都市再生特別措置法は、必要な空き家を残し活用するツール(道具)にもなります。
米山
今回の法改正により、病院や商業施設を中心市街地に集約する一方、郊外に広がった住宅の誘導も行われます。空き家の利活用についても、優遇される地域とそうでない地域が自治体内で線引きされます。いわば、自治体による居住地の選別です。
伊藤
自治体は難しい判断を迫られますが、地方創生のための重要な取り組みの一つになるでしょう。
米山
松江市では同改正法に先立ち、独自の条例を定め、空き家対策をまちづくりに生かしています。例えば、空き家を賃貸住宅として貸し出すための改修費などを補助したり、賃貸住宅に住む若者(新婚世帯またはUターン・Iターン)への家賃補助などを行っています。
長嶋
ドイツの事例も参考になるでしょう。1990年に東西統一を果たしたドイツでは、東ドイツ側で空き家問題が深刻化しました。そこで住宅を含む都市機能の集約化に取り組みました。
また、経済協力開発機構(OECD)に加盟する多くの国では、住宅総量の目安や住宅供給量の目標などを立てています。年々滅失していく中古住宅分を新築で補うぐらいの感覚です。私は、日本も新築と中古を合わせた住宅総量の目標を定めるべきだと思っています。
355自治体が独自条例で対応
伊藤
問題のある空き家に対処する独自条例を定めた自治体は、今年4月時点で355カ所に上っています。さらに問題が深刻化すると予想されます。
そこで現在、準備を進めている特措法案には、空き家の所有者を把握するために固定資産税情報を活用したり、危険な空き家を迅速に撤去できるよう法的な担保を与えたり、自治体の撤去費用など財政支援を検討することも盛り込んでいます。
米山
法律を定めることにより、自治体は動きやすくなり、心強いものになるでしょう。
また、政府が来年度の税制改正で、固定資産税の特例措置を見直す方向で検討に入ったと聞いています。確かに、老朽化して住めなくなった危険な住宅の税負担を軽減するのはおかしいと思います。
しかし、所有者の中には、軽減措置が無くなることで、最大で6倍に増える負担に耐えられない人も出てくるかもしれないので、数年間の猶予を与えるなどの工夫を講じてほしい。
長嶋
私は国政選挙のたびに、全政党の政策・公約をくまなくチェックしていますが、公明党は中古住宅の取引活性化に加え、賃貸住宅の活用に関心を寄せられていますね。中古住宅を大切にし、価値を引き上げることは、「生活者」を重視することにほかなりません。
よねやま・ひでたか
1963年生まれ。筑波大学大学院修士課程経営・政策科学研究科修了。専門は住宅・土地政策、日本経済。野村総合研究所、富士総合研究所を経て現職。2007~10年、慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員も務めた。著書に『空き家急増の真実』『少子高齢化時代の住宅市場』など。
ながしま・おさむ
1967年生まれ。広告代理店、不動産会社を経て99年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立。2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及をめざし、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を立ち上げた。著書に『「空き家」が蝕む日本』など。