安心安全な地域とは、災害の発生を阻止できる地域であるに越したことはない。しかし、現状の土砂災害等を見るにつけ、まずは避難のあり方を検討し、策定し、徹底することが求められている考えます。
その意味で、「発災1カ月/「広島土砂災害」から何を学ぶか」を考えたいと思います。
広島市安佐南、安佐北の両区で8月20日に発生した大規模土砂災害から1カ月が経過しました。
今回の災害では74人が亡くなり、広島市内の家屋被害は全壊133戸、半壊122戸、一部損壊174戸、床上浸水1300戸、床下浸水2811戸に上った。広島土砂災害から私たちは何を学ぶべきなのか。
避難情報の在り方、地域の防災力を高める取り組み、今後の減災対策について考える。
『1 避難情報』
『いかに“危険”を伝えるか/「避難所に行く」だけが避難ではない』
今回、市が避難勧告を発令したのは、土砂災害警戒情報(20日午前1時15分)が出されてから3時間後。
その時には各地で被害が出ていた。
内閣府が4月に改定したガイドラインでは、空振りを恐れず、「夜間であっても躊躇することなく、避難勧告を発令する」と要請。
また、1時間ごとの降水量を6時間先まで予測する降水短時間予報などを判断材料とするはずが、いずれも生かされなかった。
一方、避難所の開設に手間取り勧告が遅れたとの指摘がある。
「『避難勧告と避難所開設を同時に行う』(市地域防災計画)との考え方は古い」という議論もある。
また、長崎大学の高橋和雄名誉教授(防災工学)は「前日の19日夜には、高齢者や障がい者に呼び掛ける避難準備情報が出ていた。その段階で避難所を開くべきだった」と分析する。
そもそも、「避難とは決められた避難所に行くことだけではない」と兵庫県立大学防災教育センターの室崎益輝センター長は指摘する。
「深夜に時間雨量100ミリを超える大雨の中を避難するのは、かえって危険だ」と強調。
家の上階に移動する「垂直避難」の重要性を訴えるとともに、「行政は住民に『どう行動すべきか』を併せて伝える必要がある」と話す。
私たちは「避難所に行くことが避難」「勧告が出てから避難」と考えがちだが、住んでいる場所、住居の構造によって避難行動は一律ではない。日頃から災害に備える心構えが大切になってくる。
『2 防災力』
『日頃から、地域を知る/行政に頼らず自分たちで守る』
「山が崩れるとは思わなかった」。今回、甚大な被害が出た安佐南区八木地区の住民は口々に語っていた。
広島市は平地が少なく、1960年代から山間地を宅地開発し、山に向かって駆け上がるように住宅地が広がって発展してきた。
一方で、広島県は崩落などの恐れがある「土砂災害危険箇所」が全国最多の3万1987カ所(広島市には6040カ所)もあり、昔から大規模土砂災害が発生してきた地域だ。
愛媛大学防災情報研究センターの矢田部龍一センター長は「『ここは危険だよ』と住んでいる人が認識しているかどうかが生死を分ける」と指摘。
「土石流は数戸隣の家に避難するだけで良い場合がある。それには人間関係が大事」とした上で、「地域で助け合う精神と、日頃から地域の危険箇所を知り、共有するコミュニティーが必要」と強調する。
99年の土砂災害で大きな被害が出た同区沼田町伴地区では、自主防災活動が活発だ。独自に避難経路や避難所などを記した防災マップを作ったり、避難計画を作成し夜間の防災訓練などに取り組んでいる。広島市自主防災会連合会の原田照美顧問は「大災害が発生すれば、行政機能は低下する。行政に頼らず、自分の身は自分たちで守らないといけない」と語る。
今後、地域の防災力を高め、災害に強い街づくりを進めていくために、地域の担い手となる防災リーダーの育成や自主防災組織への支援などが喫緊の課題となっている。
『3 減災対策』
『砂防ダムが効果発揮/計画的整備へ住民の理解不可欠』
今回の土砂災害では、土石流が107カ所、崖崩れが59カ所で発生した。このうち、安佐北区の7カ所では、砂防ダムによって土砂が食い止められたことが県の調査で判明。
砂防ダムの減災効果が改めて注目されている。一方、甚大な被害が出た安佐南区八木地区では、国が砂防ダム9基の設置を計画し、2基の建設が進んでいたが、完成したダムはゼロ。被害が拡大した一因との指摘もある。
下流に5戸以上の人家がある「土石流危険渓流」は全国に約9万カ所ある。そのうち砂防ダムが設置されているのは22%にすぎず、整備は遅れているのが実情だ。直近に大規模災害が発生したり、住宅密集地など大きな被害が想定される地域が優先されてきた。
県は、18日に開会した県議会定例会に、復旧のための補正予算(総額154億円)を提案し、新たに7カ所に砂防ダムを設置する方針。一方、国は広島市北部の24カ所で国直轄事業の砂防ダムを建設する。
砂防ダム整備は「騒音や交通規制が発生する工事に対する住民の理解が不可欠」(国土交通省中国地方整備局)。京都大学大学院の小杉賢一朗准教授(砂防学)は、「住民の意識が高い地域ほどハード整備が進む傾向がある」とする一方、「宅地開発が進んだ地域ではダムの設置箇所が山奥になり、適切な容量を確保しきれない」と話す。防災効果に限界があるケースも想定し、避難計画などソフト対策と組み合わせた砂防ダム整備が急がれる。