【平和安全法制】憲法は他国防衛を許さず、本法制は自国防衛の論理を維持

 9月14日の参議院平和安全法制特別委員会では、公明党山口代表が質問に立ち、改めて平和安全法制の本質を一つ一つ確認しつつ意義を明確にしました。
 憲法9条を巡る憲法違反との論難にその法的安定性を明確にし、自身のイラク訪問から自衛隊の国際貢献のあり方を誰よりも実感込めて訴えられました。
 以下は、山口代表の質疑の要旨です。
公明新聞:2015年9月15日(火)付
憲法は他国防衛許さず
山口那津男代表
きょうで憲法第59条の60日ルールが適用可能な状態となっている。7月1日の参院代表質問で民主党の議員から、60日ルールは適用しない、良識の府・参院の威信をかけてしっかり議論したいとの呼び掛けがあった。立派な見識だと思う。
しかし、この60日で参院として結論を出すことができず極めて残念だ。これから先は、衆院が再議決しないようにお願いする立場になってしまった。それはそれとして、参院としてしっかり議論して、結論を出していくべきだと思う。
その上で、議論が深まったことを背景に、野党の皆さんから対案が出されたり、あるいは修正案が出されたりしている。こうした国会の議論のあり方について、政府はどう認識しているか。
安倍晋三首相
審議の進め方については、参院の判断に従うべきものと考えている。政府としては引き続き、分かりやすく丁寧な説明に努めてまいりたい。
その上で、熟議の後に、決めるべき時は決めなければならない。それが民主主義のルールであると考えている。
山口
この法案が憲法に合致しているかどうか大きな論争となった。
7月11日付の朝日新聞(電子版)によると、ジュリスト(法律専門誌)の判例百選に執筆している憲法学者にアンケートを取った。122人が回答し、そのうち77人の学者は、自衛隊が憲法違反、ないしは憲法違反の可能性があると回答している。実に63%に達する。この状況の中では、この法案が憲法に合致しているかどうかを議論するまでもなく、その前提が政府と大きく違っている。
政府の憲法の考え方を聞きたい。
横畠裕介内閣法制局長官
政府は従来の自衛権発動の3要件において、わが国に対する武力攻撃が発生した場合には、わが国として武力の行使が許されるとしてきている。
およそ、国際関係において、一切の実力、すなわち武力の行使を禁じているかのように見える憲法第9条の下でも、そのような場合に武力の行使が許されると解される法的な理由、根拠とは何か。
憲法の基本的原理である平和主義を具体化した憲法第9条も、外国の武力攻撃によって、わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫不正の事態、そのような極限的な場合においては、わが国と国民を守るための、やむを得ない必要最小限度の武力の行使をすることまで禁じているとは解されないということだ。
これが、昭和47年の政府見解の基本的論理、あるいは法理と申し上げている考え方だ。またこれは、昭和34年の砂川判決の最高裁判決が言うところの、わが国が自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛のための措置を取り得ることは、国家固有の権能の行使として当然のことと言わなければならないという判示とも軌を一にするものだ。
これに対して、いかなる場合にも、わが国は武力の行使を行うべきではないという考え方があることも承知している。このような外国の武力攻撃に対して必要な対処をせずに、国民に犠牲を強いることもやむを得ないとする考え方は、国民のいわゆる平和的生存権を明らかにした憲法前文、国民の幸福追求の権利を保障した憲法第13条に照らしても、国民の安全を確保する責務を有する政府としては到底取り得ない解釈だ。
次に、その上で、武力の行使が許されるのは、わが国に対する武力攻撃が発生した場合のみに限られるのかということは、この基本的論理そのものではなく、一定の事実認識を前提とした、基本的論理の当てはめの問題であると理解される。
まず、これまではわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫不正の事態に当てはまるのは、わが国に対する武力攻撃が発生した場合のみであると考えていたわけだ。そうだとすれば結論として、武力の行使が許されるのは、わが国に対する武力攻撃が発生した場合のみであるということになる。これが従来の自衛権発動の3要件だ。
これまでは、それでわが国と国民を守るための必要最小限度の対処ができると考えられていた。
しかし今日、わが国を取り巻く安全保障環境の変化の状況等を考慮すると、これまでとは異なり、他国に対する武力攻撃が発生し、その状況の下、武力を用いた対処をしなければ、国民に、わが国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかであるという事態も起こりうる。
そのような事実認識を前提とすれば、そのような事態、すなわち存立危機事態だが、それ自体が、わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫不正の事態に当てはまるものであることから、先ほど述べた基本的論理の当てはめの帰結として、あえてわが国に対する武力攻撃の発生を待つことなく、これに対処し、わが国と国民を守るための必要最小限度の武力の行使も許されると解される。これが新3要件だ。
新3要件の下で認められる武力の行使は、他国防衛の権利として観念される国際法上の集団的自衛権一般の行使を認めるものではなく、また、他国にまで行って戦うなどという、いわゆる海外での武力の行使を認めることになるといったものではない。
自国防衛の論理は維持
山口
この審議で集団的自衛権、個別的自衛権という言葉がたくさん使われた。これは国際法上の概念であって、憲法上の概念ではない。この国際法上の二つの自衛権を区別すると、わが国の憲法で許される自衛の措置は一体、集団的自衛権、個別的自衛権とどういう関係になるのか。
横畠長官
憲法にはそもそも自衛権という言葉はない。
従来の解釈において、わが国に対する武力攻撃が発生した場合に限って、武力の行使が許されるとしていたことから、それを国際法上の概念を用いて個別的自衛権の行使のみが許されると表現していた。
憲法の解釈として、いきなり国際法上の概念を借りてきて、個別的自衛権の行使だから許されるという論理であったわけではない。また、集団的自衛権の行使について、それ自体、何か危険なものである、あるいは、平和主義等の憲法上の価値に照らして許容しがたいものであるという判断から、これを排除していたということでもない。
新たな解釈においては、新3要件の下で極めて限定された範囲において、他国に対する武力攻撃の発生を契機とする、わが国自衛の措置としての武力の行使を認めているが、これを国際法上の概念で整理すれば、限定されたものであるとは言え、集団的自衛権の行使と言わざるを得ないということだ。
山口
そうすると、これまで有事法で規定されてきた武力攻撃事態には、いわゆる国際法上の個別的自衛権を根拠とすることができるという考え方だったと思う。そして、この度の存立危機事態、これは従来の個別的自衛権プラス、限定的な集団的自衛権を根拠とすることができるということだろうと伺った。いずれも、わが国の憲法からすれば、基本的な論理は一貫していて、その枠内の考え方におさまるというふうに聞いた。
ところで、わが国の安全保障環境が変化をしてきているから、この考え方を補足して整理していくことは政府として当然のことだと思う。その言わば“芽”は10年前にもう出ている。というのも、それ以前は、わが国が対応するのは日本の領域。領土、領空、領海の中に攻撃がなされた場合に反撃するという考え方が一般だった。ただこの考え方は、他国から見れば、日本が(他国への武力攻撃を日本への武力攻撃の)着手と見れば対応してくれるかもしれないけれど、他国の側から見たらどうなのかよく分からないという欠点がある。
むしろこれが国際法の考え方と、わが国の憲法の考え方と相まって、客観的に他国から見てもどう行動すればよいのか、日本がどう行動するのか、これが分かりやすくなっていなければならない。その意味で今回の存立危機事態、それを裏付ける憲法の考え方というのはそれを整理したものだと思うが、法制局長官、どう考えるか。
横畠長官
まさにご指摘の通りであると思う。
山口
そうだとすると、これまでの武力攻撃事態と存立危機事態がほとんど同じなのではないか、ほとんど重なるのではないかと思うが。
横畠長官
武力攻撃事態であれ、新たな存立危機事態であれ、根本にある理由、根拠は同じである。実際に起こり得る事態を考えると、存立危機事態に該当するにもかかわらず、武力攻撃事態に該当しないということは、まずないのではないかと考えられるのではないか。
海上保安庁の強化必要
山口
自衛隊の活動に対する民主的統制を確保することが重要であるという点からいうと、存立危機事態についても、新3要件に当たるかどうかについて、政府が総合判断するということになる。
これらを示した政府の対処基本方針を閣議決定し、それを国会に説明して承認を求めることとしている。国会が政府とともに責任を負うという重要な制度になるわけである。
(野党と法案をめぐる)協議が進んでいるが、(国会承認について)認識が共有できる部分もあると思う。首相、いかがか。
安倍首相
民主的統制を確保するため、国会の関与は極めて重要であると認識している。一部の野党の皆さまとも、認識を共有していると考えている。
国会の関与について、例外として、事後承認を認めている法案もあるが、原則はあくまでも事前承認であり、政府として可能な限り、国会の事前承認を追求していく考えだ。
山口
(ホルムズ海峡についての)これまでの首相の答弁を整理すると、「戦闘状態が続いている間は掃海作業はしない」と明確に答弁している。停戦合意があればできる。これがはっきりした答えだ。ところで現実に湾岸諸国でイランなどが、ホルムズ海峡に機雷を敷設するような国際情勢が想定できるのか。
岸田文雄外相
政府としては、イランを含めた特定の国がホルムズ海峡に機雷を敷設するとは想定していない。特定の2国間関係、あるいは国際情勢のみを念頭に存立危機事態を設けているものでもない。
山口
こういうところで武力を使う、自衛権を使って掃海作業をするということは避けるべきだと思う。
安倍首相
ホルムズ海峡における機雷掃海については、機雷が敷設された後、事実上の停戦状態となり、戦闘行為はもはや行われていないが、正式停戦が行われず、遺棄機雷とは認められないようなケースだ。
機雷の掃海は、その性質上、受動的かつ限定的な行為であり、外国の領域で行うものであっても新3要件を満たすことがあり得ると考えているが、今現在の国際情勢に照らせば、現実の問題として発生することを具体的に想定しているものではない。
山口
次に、昨年、小笠原近海で中国漁船のサンゴ密漁があり、罰則強化などの法改正や海上保安庁の法執行体制の強化、また、中国との外交交渉で事態を収拾した。
海上保安庁の法執行力、巡視船の強化、乗組員の拡充、あるいは国際社会と人材育成によるネットワークの構築などを国策としていくことが重要だ。
安倍首相
私としても、戦略的観点から、巡視船、航空機の整備や要員の確保等、必要な体制強化を計画的に図っていきたい。加えて、アジア諸国の海上保安機関との連携を深めるため、共同訓練の実施や人材確保への協力を行うなど、関係各国との協力関係を一層強化していく考えだ。
山口
この平和安全法制で、抑止力を強化することは重要だが、何のためにやるかというと、これを実際に使うためではなくて、対話によって、外交的な手段で平和的に物事を解決するということだ。
アメリカは、先頃の海洋戦略によって、一つの柱として多国間の安全保障対話機構を生かすべきである、例として、東アジア首脳会議(EAS)やASEAN地域フォーラム(ARF)などを挙げている。ARFは北朝鮮も参加しているというところが重要だ。
安倍首相
まずもって、外交を通じて平和を確保することが重要であることは言をまたないと思う。その上で万一の備えも必要だ。平和安全法制は紛争を未然に防ぐためのものだ。
わが国はアジア太平洋地域の多様性を踏まえ、日米同盟を基軸としつつ、EAS、そしてARFなど、さまざまな対話の枠組みを重層的に活用していく考えだ。