【格安スマホ】携帯も使い方に応じて、料金引き下げが必要だ。


 公明党の後押しも受けて開かれた総務省の有識者会議(タスクフォース)が、昨年末にまとめた携帯電話料金の引き下げ策の柱の一つが「格安スマートフォン(スマホ)」の普及だった。そこで、格安スマホの現状と課題をまとめた。
 『なぜ安い?』
 『大手の回線借りて費用下げ/データ通信量や速度は制限』
 「格安スマホ」と呼ぶ場合、大別して、
(1)インターネットや通話などのサービスを低料金で利用できること
(2)電話機代が安価なこと――の二つの意味合いがある。
 (1)について、データ通信量を最小(2ギガバイト=GB)にした場合、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの携帯大手3社が提供する料金プランの最安値は、いずれも基本料2700円とデータ通信料3500円にネット接続料300円を加えた6500円となる。
 一方、格安スマホの代表例を見ると、楽天モバイルはデータ通信料1600円(3・1GB)プラス通話料(30秒当たり20円)、イオンスマホはデータ通信料1350円(1GB)プラス通話料(30秒当たり20円)で、それぞれ利用できる。
 総務省が昨年2月に行った利用者アンケートでは、携帯電話・PHSでの通話利用時間(発信)が1週間当たり5分未満だった利用者の割合が5割を超えており、電話をあまり掛けない利用者には格安スマホがお得だ。
 音声通話のないデータ通信専用プランなら、さらに割安な3GBで900円台が相場となっている。
 格安スマホの事業者が低料金でサービスを提供できるのは、大手3社から通信回線を借りることで、基地局などの設備投資に掛かるコスト(費用)を抑えているからだ。自前設備を持つ大手3社を「移動体通信事業者(モバイル・ネットワーク・オペレーター=MNO)」と呼ぶのに対し、格安スマホの事業者は設備を持たない「仮想」(バーチャル=V)という意味で「仮想移動体通信事業者(MVNO)」と呼ぶ。
 また、店舗を持たず、ネット上での購入を主体にしたり、利用できるデータの通信量や通信速度を低く設定したり、限られた回線をより多くの利用者で使ったりすることで低価格化を図るのも、一般的なMVNOの特徴だ。
 (2)の電話機代については、大手3社の扱う最新製品が8万円を超すことも珍しくない中、海外メーカーによる安価な製品も多数出回り、最新機種でも1万円台から手に入るようになっている。
 価格と性能は比例するとはいえ、低価格帯のスマホでも、通話をしたり、ホームページを閲覧したり、フェイスブックやツイッターを楽しむ程度なら十分だ。
 これらの電話機は「SIMロック」のないSIMフリー型になっている。スマホを使うには、電話回線と接続するために必要な電話番号などの契約者情報が記録されたICカード「SIM」を、電話機に差し込まなければならない。
 SIMロックとは、自社のスマホを自社の回線でしか使えないようにする規制のことだ。例えば、NTTドコモが提供するSIMをソフトバンクの電話機に差し込んでも、電話やデータ通信はできない。そうした規制がないSIMフリー型の電話機なら、大手3社はもとより、どのMVNOのSIMも使える。
 MVNOが提供する格安プランと安価なSIMフリー型のスマホを別々に購入し、スマホ料金を抑えることもできるようになっている。
 『課題は?』
 『認知度の低さと品質に不安/SIMロック解除追い風に』
 総務省による前述の利用者アンケートでは、MVNOを利用する主な理由として「月額利用料金が安い」(56・6%)、「初期費用が安い」(30・3%)、「都合の良い料金体系がある」(18・4%)などが挙げられており、料金面が利用者にとって魅力的に映っているようだ。
 一方、MVNOを利用しない主な理由については、「サービス内容をよく知らない」(51・3%)、「事業者をよく知らない」(26・3%)という認知度の低さに加え、「通信品質に不安がある」(13・5%)、「サポートに不安がある」(13・4%)など品質面への信頼性に懸念を持っていることが分かる。
 国内のMVNOは199社(昨年9月末時点)。しかし携帯電話などの契約全体に占めるMVNOの割合はわずか6・3%(同)にすぎない。
 そうした中で昨年5月から始まったSIMロック解除の義務化は、MVNOの普及へ大きな追い風となっている。大手3社とも購入から6カ月が経過していれば、ロックの解除に応じるようになった。
 さらに、総務省の有識者会議がまとめた報告書を受け、大手3社も改善策に乗り出している。大手3社から支払われる販売奨励金を元手に販売店が電話機代を「実質0円」にするような過剰な値引き合戦が抑制されれば、MVNOの普及は今後、加速すると予想される。
 現在、MVNOが販売する格安スマホ用のSIMも製造元は大手3社だが、大手3社とMVNOとの協議を経て、MVNO自らがSIMを発行できるようになれば、通話定額をはじめとする独自サービスの幅が広がると見込まれている。
 『利用者には冷静な目が必要/ケータイジャーナリスト/石野純也氏』
 MVNOの普及が携帯大手3社にとって悪影響を与えると考えるのは早計だ。MVNOの利用者が増えた分、電話回線を借りる際に支払う接続料も増える。また、現状では、スマホの使用頻度が多い人は大手3社、あまり使わない人はMVNOといった具合に、利用者のニーズに応じて、しっかりとすみ分けができている。
 大手3社は昨年末から、総務省のガイドラインに基づき、理論上の最大速度に加えて実際に計測した速度(実効速度)を広告表示に併記することにした。電波の混み具合や時間帯などで理論値と実感とが乖離していたからだ。こうした試みは、通信品質で不安視されがちなMVNOにこそ必要であって、ぜひ前向きに取り組んでもらいたい。
 ここ数年でMVNOが一気に参入し、スマホ市場は玉石混交の状態だ。競争を通じて製品やサービスが一定程度、淘汰されるまでの間、利用者もネット上で氾濫する情報などをうのみにせず、冷静な目が求められる。