大規模災害に“福祉の視点”を/金沢大学青木賢人准教授が講演

1月26日、石川県金沢市で開催された復興創生大会で、能登半島地震から1年を振り返り青木賢人金沢大学准教授が講演を行いました。県議会公明党の八島功男議員が、重ねて議会質問等で指摘した内容が盛り込まれています。その講演の要旨を掲載します。

今回の地震は、能登半島の北側にある活断層が原因だ。海に突き出して細長く、首根っこの細い地形の半島で起こったことが大きなポイントとなる。地震によって、半島内の小さな集落が孤立したのはもちろん、能登半島全体に対して人や物や資源が投入できなくなり、半島全体が孤立した。いわば能登の多くの地域で二重に孤立が発生した。

過疎、高齢化地域で起きたことも大きな特徴だ。これは全国でも進展しているが、中でも能登地域は高齢化率が非常に高い。震災前の奥能登地域2市2町では、高齢化率が50%を超えて2人に1人が65歳以上だ。過疎・高齢化が進む地域では自助、共助、公助の3本柱が機能しづらい。能登だったから大変というわけではなく、日本の各地でも起こり得る。今の時期にできるだけ早く対策を打っていくことが必要だ。

今回の震災では、トイレカーが非常に大きく役に立った。自治体に1台2台あってもたかが知れているが、いざ災害となったら全国のトイレカーが集まるような仕組みがあれば、もっとスムーズに、被災者の皆さんへの支援ができる。現政権では、その調整機関となる防災庁の設置も検討されている。全国の自治体の力を活用し運用可能なプラットフォームづくりも考えてほしい。

今回の地震では広域避難、二次避難で多くの方々が避難した。避難者の多くは高齢者や若干のハンディを抱えた方だ。その意味では、被災者支援と福祉支援が非常にシームレス(切れ目のない状態)になっている。災害対策基本法は1961年につくられた。住むところと食べるものさえあれば、皆さんが自力で立ち上がっていける時代の考えに基づいた法律だ。この法律の立て付けに福祉の視点を取り入れるべきだ。

能登半島地震では、ハザードマップで浸水が想定されているところに仮設住宅が整備された地域がある。能登は建設に適した平地が少なく、こうした場所に建てざるを得なかった。全国の半島でも同じ課題があるかもしれない。浸水想定地域に整備するならば、そのための対策を講じるべきだ。例えば、基礎を高くするような基準で建てる。50センチでも基礎を高くすれば、昨年9月の豪雨時は床下浸水で済んだかもしれない。

各戸には防災無線の戸別受信機も付けるべきだ。輪島市では、水があふれる2時間前に避難指示が出ていたが、戸別受信機がなかったために、大雨の音でかき消され避難指示が伝わらなかった。今後の教訓として考えてほしい。

一方で、能登半島地震は厳しいことばかりではなかった。非常に深刻な津波が発生し、多くの建物が津波で壊されたが、多くの人が逃げ切ることに成功した。東日本大震災の教訓を踏まえ、普段から訓練してきたことをしっかり実践できた地域では、今回多くの命が助かった。これはとても大切なことだ。

あおき・たつと 1969年生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。専門は自然地理学、地域防災。石川県防災会議震災対策部会委員、県教育委員会学校防災アドバイザーなどを務める。

八島功男議員の代表質問より(2024/9/10)

時間や場所を問わず、免れ難い自然災害・私たちは災いと災いの間、災間に生きています。災害による直接死などをどこまでも最少にし、さらには発災後の関連死ゼロを目指す幅広い避難所運営こそ最重要と考えます。
東日本大震災の災害関連死は、津波被害を除くと65%の方が、そして、熊本地震では、犠牲者の8割が災害関連死でした。能登半島地震でも約300人が犠牲となっていますが、既に認定された方を含めて、200人以上が災害関連死の申請をしています。
私は、災害は完璧に防げなくても、災害関連死は、皆で一丸となって取り組めば防ぐことができると確信しています。
国土強靱化基本計画には、「避難生活における災害関連死の最大限防止」の文言が書き込まれました。避難所運営の責任を担うのは市町村でありますが、避難所環境の水準は、県全体として均一であるべきであります。県の助言と支援が必要です。県は常にブラッシュアップした情報を更新し、模範のモデルケースを示すことが肝要です。
それでは、避難所環境の改善には何が必要でしょうか。一般社団法人避難所・避難生活学会の植田代表理事は、命を守るTKB48を訴えています。
まずは、清潔で安全なトイレ、Tです。汚い、臭いトイレは使用忌避となり、飲水抑制につながることで身体機能を低下させます。和式トイレを高齢者が使用することは困難です。移動可能なトイレトレーラー車両を県が配備することを要望したいと思います。
次に、適温でおいしい食事を提供するキッチン、Kです。避難所の食事はどうしてもおにぎりや菓子パンなど炭水化物に偏りがちです。ビタミンやたんぱくが減少すると生活不活発病になり、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。多様な食事が提供できるよう、キッチンカーの配備も大切です。
3番目には、熟睡できるベッド、Bです。段ボールベッドが認知されるようになりました。プライバシーを守るパーティションとの併用もしたいと思います。体育館の床に雑魚寝して低体温症になることを避けなければなりません。
そして、これらのTKBは、48時間以内に避難所に配備されることを目指したいと思います。
避難所は生活の空間です。暑さにせよ寒さにせよ、空調設備なしでは生活できません。指定避難所等への空調設備設置を加速化していただきたいと思います。その空調設備稼働の前提は電源です。避難所においても非常用電源の設置を、高齢者施設や医療的ケア児のための電源確保と同時に推進をしていただきたい。
避難所には、時間の経過とともに、高齢者や要配慮者がとどまります。福祉的支援の比率が高くなります。私たちは、避難所の生活環境の向上に向け、人道対応に関するスフィア基準を参考とした取組や女性の視点を生かした避難所運営を実行しなければなりません。
さて、避難所運営の大きな課題は、自治体のマンパワー不足にほかなりません。行政はまず、災害そのものに対峙しなければならず、公助の限界を感じざるを得ません。被災地にあって、数多くの特色と実践力があるボランティアを結集できるかが行政に問われています。時にプロフェッショナルであるボランティアの方が、よりよい高度な避難所等の支援ができると思われてなりません。
国が直近の地方自治法の改正の中で、新たに指定地域共同活動団体を創設し、自治体との連携を展望していることからも、多様な主体との連携は重要な視点と言えます。
市町村は、市町村避難所運営マニュアルを策定し、避難所運営の訓練も実施していますが、県の助言と支援が必要なことは明白です。マイナンバーカードのスマホ搭載も検討したいと思います。避難所へのチェックイン、誰がどこにいるか、健康保険証と連動すれば被災者カルテの作成も可能です。各種の情報をプッシュ方式で伝えるICT活用が重要だと考えます。
避難所運営は、絶対に災害関連死を出さないという覚悟が重要です。避難所のハード面、ソフト面で数多くの課題があります。県が率先して避難所運営の先進事例を構築していってほしいと思います。
これらを踏まえ、災害の被害を最少に、災害関連死ゼロを目指す避難助運営について、知事の御所見を伺います。