第3回定例会一般質問の詳細を掲載します。2問めは、滋賀県大津市のいじめによる自殺問題に関連して茨城県の教育行政の一面を問うものです。
通常教育関係の質問は、行政出身の教育庁が答弁するものですがね今回は、県議会でも余り例のない教育委員会委員長に問うものとしました。いじめの問題に対して、教育委員会のあり方が問われたこともあり、また教育委員の皆さんが必ずしも教育関係者でない等を特色とすることから、経験と見識を問ながら教育制度を問おうとするものです。
今回お答えいただいた福岡委員長は、小児科医や学校医としての経験をお話されました。いじるに気付く機会があったとの内容は重いものです。多くの気付きが大切だと改めて感じるものです。
☆八島功男議員
次に,いじめ対策と教育委員会についてお伺いいたします。
初めに,常陸太田市で亡くなられた中学生,また各地のいじめによりみずから命を絶った子どもたちに,心からの御冥福をお祈りいたします。子どもたちの未来を思うとき,痛惜の念にたえません。かけがえのない命を失う悪魔の連鎖は,絶対にあってはならないと声を大にして叫びたい。
常陸太田市の中学生の自殺の要因の1つと思われる「死ね」というメール,また,今回の端緒とも言える滋賀県大津市の市立中男子生徒の自殺を契機としたいじめの調査で発覚した,「自殺の練習」などの残忍性や事件性は,私たちに大きな衝撃を与えました。
かつて,1986年に「葬式ごっこ」といういじめがあったことを思い出せば,学校におけるいじめという根深い病根は,長く広く蔓延し,解消し尽くせないでいる現実を突きつけます。
文部科学省が実施しているいじめの状況調査では,茨城県内小中学校の認知件数は減少傾向にあるものの,解消に至らず,継続支援やさらなる取り組みが必要なケースも2割程度あるとされ,いじめに対して絶え間ない取り組みが必要なことを見てとれます。
文部科学省は,いじめの定義を平成18年度調査から変更いたしました。いじめられたとする児童生徒の気持ちを重視し,「仲間外れ」や「集団による無視」などの心理的な圧迫による苦痛や,金品のたかり,隠し,盗み,壊すなどの犯罪性に踏み込み,加えて,ネットや携帯サイトの誹謗中傷などもいじめと広く例示しました。
そこで,いじめが,それを受けた側の感じ方次第でいじめになったり,ならなかったりするため,学校,先生方にいじめ察知の戸惑いがあるようです。いじめと学校の関係が揺らいでいます。そして,いじめは大人世界の醜悪にうり二つにも見えるのです。
ともあれ,いじめは,その発生の初期に速やかに芽をつまなければなりません。無関心や傍観をなくし,縁あるすべての人が高い察知能力を鋭く駆使する必要があります。
さて,今回の「いじめ」の問題については,例えば“夜回り先生”として有名な水谷修氏は,「いじめは,基本的人権を侵害する“重い罪”という考え方を共有することが大事」と指摘し,教育評論家の尾木直樹氏は,「けんかを軽くとらえ,いじめを見逃す教師の判断能力低下」を憂いて「継続的ないじめ防止教育」の不足を指摘しています。さらに,「学校経営や教育委員会が管理社会になり,風通しが悪く,教育の成果が見えない」とまで発言しています。
学校教育は,すべての生徒のすばらしい個性ある才能を発見し,はぐくみ,開花させるための人間と人間が切磋琢磨する大切な人間形成の舞台だと考えます。いじめられる側も,いじめる側も,双方に等しく事情を見極めたいと,その後の人生いかばかりかと思う学校の深い配慮があることも理解できます。
しかしながら,いじめの病根を絶つために大事なことは,「いじめられる側にも問題がある」という無意識の錯覚を絶つことです。いじめる側と傍観する者を擁護してはならない。この世界に「いじめられてよい人」がいようはずがありません。弱いからいじめられているのでは決してありません。いじめている人間の方が,みずからの醜い心に負けている「弱い人間」なのです。そのためにも,「いじめをする側が,100%
悪い」「いじめをする側が,100%悪い」を学校や家庭,地域の内外に対して,簡潔そして明確に宣言すべ
きだと申し上げたい。これは極端な言い方ではなく信念の意思表示です。「いじめ」を絶対に正当化しないことからスタートすべきなのです。
大津市のいじめによる自殺問題は,学校のアンケート調査や市教育委員会の対応に批判が集まりました。警察への被害届や損害賠償請求等から,刑事,民事の事件性が問われる状況になっています。ここに至って,教育委員会は,「責任の所在がない」「姿が見えない」「機能しない」との批判や「もはや無用である」との厳しい論調もあるようです。
そもそも教育委員会は,戦時下の軍国教育を繰り返さないように求めるGHQの要請で政治権力から独立した組織として1948年に誕生した歴史があります。教育委員は首長により議会の同意を得て任命されます。
私は,教育委員会無用論にくみするものではありません。教育委員会の意義は大きく期待は高い。教育委員の皆さんの御職業や御経験から発想される教育に対する高い見識を持って,教育行政をリードすべきだと考えます。教育委員会は,ともすれば内向きになる学校や教育行政を,外部視点から的確に助言すべきです。また,保護者や県民,市民と直接対話し,広く県民の意見要望を聞くことも重要だと考えます。いじめ防止についての見解を発してもよいのではないでしょうか。
そこで,いじめに対する見解及び教育委員会運営への取り組みについて,福岡教育委員会委員長の御所見をお伺いいたします。
以上でこの項目の質問を終わります。
○福岡教育委員会委員長
茨城県教育委員会委員長の福岡です。
いじめ対策と教育委員会についてお答えいたします。
まず,いじめに対する見解のお尋ねでございます。
このたび,本県の中学生がみずから命を絶つという大変痛ましい事故が起こりましたことは,極めて残念なことであり,大変重く受けとめております。不幸にも,お亡くなりになられました子どもさんの御冥福を心からお祈りいたします。
いじめは,基本的人権を侵害し,人間の尊厳を侵すことでありますので,絶対にしてはならない行為であり,議員御指摘のとおり,「いじめられる側にも問題がある」などと,いじめを正当化しようとする主張は断じて許されないことでございます。このため,まず,子どもたちに対しまして,「いじめは絶対に許されない」という意識を,学校教育活動全体を通して,徹底していくことが極めて大切であると考えております。
また,私が教師に求めますことは,子どもたちのほんのわずかなサインも見逃さずに,一人一人に寄り添った教育を行うことであり,その教師を私たち教育委員会がサポートしていくべきものと考えております。
さらに,早期発見・早期解決のためには,医療関係者や警察,民生委員等々さまざまな立場にある地域の皆様方の大きな連携を持って,学校と保護者をサポートしていただくことも必要でございます。
いずれにいたしましても,本県の子どもたちが楽しく学校生活を送れますよう,教育委員会がその先頭に立って,いじめ防止に向け全力を尽くしてまいりたいと考えております。
次に,教育委員会運営への取り組みについてのお尋ねでございます。
まず,本県の教育委員の活動状況について申し上げますと,教育課題を踏まえた学校訪問,保護者や生徒との懇談会,さらには市町村教育委員との協議会を開催するなど,私どもがさまざまな場面に出向き,広く県民の方々の意向や教育現場の実情の把握に努めているところでございます。
さらに,定例の教育委員会とは別に,教育委員同士による委員協議会,また,執行部との意見交換会などを通して,活発な議論を行っているところでございます。
また,今回のいじめ問題につきましても,緊急に委員協議会を開催し,市町村や学校への支援策を協議するなど,対策を講じてきたところでございまして,教育委員会制度をめぐる厳しい意見がある中において,本県におきましては,しっかりとその役割を果たしているものと認識しております。
次に,私の小児科医としての見解と実践を申し上げたいと存じます。
私は小児科医として日ごろの診察,診療を通して,子どもたちや保護者の方々のさまざまな気持ちや悩みに日々接しており,また,学校医として学校とのかかわりも多く,教育委員会の会議等においては,これらの経験や意見を忌憚なく申し上げまして,さまざまな教育施策に反映させております。
子どもは,心のトラブルをしばしば身体の不調として小児科医を訪れ,日々一人一人に対応しております。このところ大変ふえているのが現状でございます。子どもの命は非常に大切であり,守らなければなりません。県内の小児科医は,ちょっと申し添えますと,今回の全国的ないじめ問題や心身症,不登校の増加には大変危機意識を持っておりまして,早速これらの問題につきまして研修し討議する機会を,教育委員会と連携して設けたところでございます。
子どもたちに直接寄り添う学校と医療者,とりわけ,まず小児科医ですが,連携構築に当たりたいと考えているところでございます。私以外の委員もそれぞれのお立場から豊富な知見をお持ちでございますので,今後とも活発な討論を行いながら,教育委員長として本県の教育行政をリードしてまいりたいと考えております。
☆八島功男議員
福岡委員長には小児科の開業医としての御自身の経験を通じて,信念ある御所見を承りました。ありがとうございました。