【カレーの市民】悲劇をも英雄にする偽善の魔性に鋭く人の心の局面に挑む彫刻。

 先日、時間調整の意味もあって上野の国立西洋美術館の前提でロダン他の彫刻を鑑賞しました。
 国立西洋美術館は、松方コレクションを基礎とした西洋美術品作品群を展示保管するもので、現在は「モネ展」を開催しています。久方ぶりの美術館でした。ロダンの彫刻「カレーの市民」を写真に収めましたが、かつて母校創価大学にある彫刻を撮影するのにベストショットを狙って格闘したことを思い出します。
 「カレーの市民」は、イングランド王エドワード3世がクレンシーの戦いで勝利を収めたあとに、フランスの港湾都市カレーを包囲した際に、フランス王フィリツプ6世は断固たる戦いを求めて降伏を認めなったものの、結果としてカレー市民は飢餓の中で降伏交渉となった際に、出頭を命じられた6人の姿を描いたものです。
 ロダンは、敗北・英雄的自己犠牲・死に直面した恐怖の交錯する瞬間を捉えてこの彫刻を作成したと言われるが、実は戦争による犠牲を英雄化するような表現を嫌い、むしろ陰気で疲れきった姿にこそ戦争の本質として描いたと考えられます。
 なお、この6人は、エドワード王の処刑の命に対して、王妃フィリッパの懇願により命を助けられカレーに帰還したとされます。
 人は人の評価により英雄化され、その本質から離れて行ってしまう場合があります。「カレーの市民」は、戦争の本質を人間の本性において生々しく真実に迫ろうとしていると思えました。この苦悩の先に何があるのか。極限の世界でその人の真実が分かるのかもしれません。
 

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