【平和教育】「アンネの日記」破損の愚行、異なる思想を排除しようとしては「平和」は訪れない。

 悲しい出来事ではないか。 
 図書館などで「アンネの日記」や関連本を破る愚行は許されようがない。
 
 アンネの日記は、第2次世界大戦下を生きたユダヤ人の少女アンネ・フランクが、ナチスの迫害から逃れるため、移り住んだ「隠れ家」で書かれた日記。
 秘密警察の手が迫る中でも、希望を失わなかった意志の強さが読み手の心に響く世界的名著である。
 ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の犠牲になったアンネは、15歳で生涯を閉じた。日記は二度と繰り返してはならない出来事を後生に残すため、2009年に世界記憶遺産に登録されている。
 在日イスラエル大使館は「日本全体の意思でないと理解している」として、被害に遭った図書館へ「日記」を含む関連書籍300冊の寄贈を申し出た。米国に本部を置くユダヤ系人権団体サイモン・ウィーゼンタール・センターは「ショックと深い懸念」を表明し、警察の対処を求めた。その真情を察して余りある。
 菅官房長官は事件を「極めて遺憾」と非難。警視庁は器物損壊事件では異例の捜査本部を設置した。
 相次ぐ卑劣な行動から「アンネの日記」を保護するため、やむを得ず書庫に移し閉架とする図書館も出ている。本を破る犯人の動機は不明だが、仮に、知る権利を侵害する意図があるとすれば、断じて許されない。
 かつての日本は無謀な戦争によって自国民やアジアの民衆に多大な苦しみをもたらし、戦後の日本はその反省に立ち、国民が憲法にうたう「恒久の平和」を希求する努力を積み重ねることで、国際社会の信頼を回復した。
 日本の民主主義は、個人の権利や自由を基本的人権として尊重することで成り立っている。
 異なる思想を排除しようとする論理とは、相いれない。一連の損壊事件が、平和社会を脅かす動きと同根でないことを願いたい。
 「紙は人間よりも辛抱づよい」。ジャーナリストをめざしたアンネが、命を削って残した平和を願う言葉だ。これを読み継ぐことは、現代に生きる者の責任でもある。