【軽減税率】軽減税率対象食品で8パターン、論点整理で実現への前進を。

 自民、公明の与党両党は5日、衆院第2議員会館で税制協議会を開き、消費税率10%への引き上げに伴い、生活必需品の税率を低く抑える軽減税率の導入に向けた論点整理を発表した。公明党の斉藤鉄夫税制調査会長、西田実仁同事務局長(参院議員)らが出席した。
 消費税は低所得者ほど負担感が増すため、公明党は消費増税の低所得者対策として軽減税率の導入を強く主張。昨年末に与党がまとめた税制改正大綱では、軽減税率を「(消費)税率10%時に導入する」と明記した。これを踏まえ、与党は税制協議会で軽減税率の導入に向けた課題などで議論を重ね、今回、その論点を取りまとめた。
 論点整理では「予め案を絞り込むのではなく、広く国民の意見を聞きながら、検討していく」との方針を表明。公明党が主張してきた独自案も含め、対象品目で8パターン、事業者の経理手法で4パターンの具体案を提示した。
 対象品目では、生活必需品に対する税負担を軽くし、痛税感を緩和する観点から飲食料品を想定し、対象品目の線引きや税収への影響を示した。
 対象品目全ての飲食料品を対象とした際の減収額は1%あたり6600億円。公明党が提唱してきた「酒、外食を除く飲食料品」では、4900億円としたほか、コメ、みそ、しょうゆの3品目や、精米のみに限定した場合は200億円と試算した【表参照】。0606_keigen_[1]
 今後、与党は今回の具体案を事業者団体などに示して意見を聞き、年末までに結論を出す方針だ。
 会合後の記者会見で斉藤税調会長は、対象品目や経理手法で訴えてきた公明案について「取り下げたわけではないが、いろいろなパターンのメリット、デメリットを示して意見をいただくのは、より良い制度を作り上げていく上で不可欠だ」と強調。軽減税率の導入時期については「(消費税率)10%への引き上げ時に導入したい」と力説した。
 また、公明党が軽減税率の対象として訴えてきた新聞・出版物に関して、社会政策の観点から議論が必要とし、「最初から(対象品目が)食料品だけという姿勢ではない」と主張した。
 一方、この日の協議では、法人税改革に関する論点整理も発表。法人税改革に対して公明党は、中長期的な課題として否定しないとした上で「消費増税が法人減税の財源という誤解を生むことがあってはならない」などと訴え、その考え方を反映させた。
消費税の軽減税率に関する検討について」(2014年6月5日)
自由民主党・公明党
(与党税制協議会)
 与党税制協議会では、6月5日、広く国民に議論いただくため、消費税の軽減税率に関する資料を公表しました。
 与党税制協議会においては、「消費税の軽減税率制度については、『社会保障と税の一体改革』の原点に立って必要な財源を確保しつつ、関係事業者を含む国民の理解を得た上で、税率10%時に導入する」旨を平成26年度与党税制改正大綱において決定し、同大綱に基づき検討を進めている。
 この問題について、与党税制協議会としては、予め案を絞り込むのではなく、広く国民の意見を聞きながら、検討していくこととした。税負担は少ない方が良いというのが消費者としての国民の普通の感情であり、軽減税率の対象範囲は広ければ広いほど良いということになりがちである。その一方で、消費税の社会保障目的税化により、消費税率の引上げと社会保障の充実・安定は分かち難く結びついており、軽減税率の対象範囲と社会保障の充実・安定との関係については、広く国民的な議論をいただく必要がある。また、消費税は、事業者が納税義務者であり、軽減税率は納税義務者に追加的な事務負担をもたらす。さらに、消費税はモノ、サービスの価格に結びついているが故に、同じような商品の税率の高低が、消費行動やモノの売れゆきに直結する。これらが、与党税制協議会が、国民に広く意見を聞きながら検討する必要があると考えた理由である。
 したがって、ここに示すそれぞれの案の性格は、どの案が有力ということではなく、国民の議論の材料とするため、考え得るパターンをいわば機械的に示すものである。
線引き例と財源について
 与党税制協議会としては、軽減税率の対象分野は、生活必需品にかかる消費税負担を軽減し、かつ、購入頻度の高さによる痛税感を緩和するとの観点から絞り込むべきとの考え方のもと、まずは飲食料品分野とすることを想定して検討している。その中で、各国で行われている線引き例を当てはめて、8種類のパターンを提示する。なお、EU諸国では20%前後という高水準の基本税率の下で、軽減税率対象分野はさらに広範となっていることに留意する必要がある。当然、軽減対象範囲が広ければ広いほど、軽減分を埋め合わせるための財源の規模は大きくなり、その分、社会保障財源に影響を与えることとなる。範囲と財源両方を勘案した議論を期待したい。また、実務上、線引きが明確であることは不可欠であり、この点についても事業者等の意見を期待したい。
区分経理について
 複数税率制度を導入する場合、課税事業者には新たに区分経理事務が発生する。資料5のA~Dの4案とも、納税義務者の事務負担は増加する。
 付加価値税(消費税)を導入しているEUをはじめとする大部分の国では、EU型インボイス方式(資料5:D案)が採用されている。現行の請求書等保存方式においては、税率が上がるにつれ、いわゆる益税が増加するおそれがあるのに対し、この方式においては、消費者が負担した消費税が納税義務者たる事業者を通じて適正に納税される。納税額の計算等は請求書等の税額を用いて行う。但し、事業者間取引を行っている免税事業者は、課税選択をしなければ、追加の事務負担は発生しないかわりに、取引を避けられる可能性があるという問題がある。
 他方、資料5のA、B案は、このような免税事業者に係る問題はないものの、税率引上げや複数税率制度によりいわゆる益税が拡大する可能性は高く、免税事業者にも追加事務負担が発生する。納税額の計算等は帳簿に基づき行う。
 これらの点を踏まえ、関係業界も含め、国民的な議論を期待したい。
簡易課税とマージン課税について
 複数税率制度の導入により、現行の簡易課税制度の業種区分を細分化し、それぞれにみなし仕入率を設定することとなるため、簡易課税を選択した事業者の経理事務が複雑になるという新たな問題が生ずる。また、区分経理について、資料5のC、D案を採用した場合には、中古品販売業者について特別な手当てが必要となる。これらについて、諸外国の例を参考に制度案と論点を示している。
 社会保障・税一体改革は、世界に冠たる日本の社会保障制度の持続性を確保するとともに、財政健全化目標の下、財政の信認を確保する観点から、着実に進めていかなければならない。
 消費税と、年金、医療、介護、少子化対策の歳出を一体のものとするとの社会保障・税一体改革の原点を十分に踏まえながら、ここに示した軽減税率制度導入のための課題と論点について、広く国民各層において活発な議論がなされることを期待したい。