先日、私と平石勝司土浦市議は、地元土浦市中心市街地を受戒するコミュニティバスに乗車し、乗降客の様子や路線の実際を学んで参りました。
公共交通への期待は、高齢化と共に高まりを見せ、買物難民や病院通院への利用など、高齢福祉の要にあると言わざるおえません。
その意味で、発表された「交通政策白書」から、地域公共交通の再構築を見出したいと思います。
政府は、このほど、交通関連のデータや重要な政策テーマを分析した「交通政策白書」を閣議決定した。
交通政策基本法(2013年制定)に基づき初めて作成され、高齢化や人口減少の進行で衰退が危ぶまれる「地域公共交通」について主に取り上げている。その内容を解説するとともに、地域公共交通の再構築に向けた視点を横浜国立大学の中村文彦理事・副学長(教授)に聞いた。
『規模縮小に強い危機感』 『まちづくりと一体的な整備促進へ』
急激な高齢化や人口減少、事業者の経営悪化など、地域公共交通をめぐる状況は厳しさを増している。白書は、今後の展望に強い危機感を示す内容となっている。
地域公共交通の動向を輸送人員で示すと、路線(乗り合い)バスは65億人(1990年度)から42億人(2010年度)に減少。地域鉄道は、5・1億人(90年度)から4億人(13年度)と、利用者数は大きく落ち込んだ。
その結果、交通事業者による不採算路線からの撤退が相次いでいる。代替輸送手段がない状態で路線バスが廃止された距離は、09〜13年度の5年間で約6400キロメートルに及ぶ。鉄道でも、00〜14年度の15年間で37路線、約754キロメートルが廃止になるなど、地域の公共交通ネットワークの縮小が目立つ。
白書はこうした現状について、人口減少に伴う利用者の減少がサービスの低下や路線の廃止を招き、さらなる利用者減少につながる“負の連鎖”に陥っていると指摘する。
地域公共交通は「自動車を運転できない人々にとって欠かせない存在」である。その衰退が進むと、自動車が運転できない高齢者にとっては生活の足が奪われ、大きな影響を受けることは必至だ。内閣府の「高齢者住宅生活意識調査」では、多くの高齢者が買い物や通院に不便さを感じている結果が出ている。都市規模別で見ると、小規模な都市や町村ほど交通機関の不便さを感じている人が多い。
この点は、高齢者の自動車運転と密接に関わる。警察庁の「運転免許統計」によると、高齢者の免許証返納件数は年々増加しているが、「代替交通手段に関する懸念から返納していない場合も考えられる」(交通政策白書)。
高齢者は、反射神経の減退や認知機能の低下などで事故の危険性が高まるとされている。免許保有者10万人当たりの死亡事故件数は、75歳以上が突出して多い(警察庁調査)。高齢者が自動車を運転しなくても安心して暮らせるようにするため、公共交通の充実は急務である。
一方で白書は、課題克服に向けた取り組みが、地域公共交通の市場拡大につながり、観光客の利便性向上や地域間交流の活発化など、交通網の再構築による新たな効果にも期待を示す。
その上で、自治体を中心にまちづくりと交通網の整備を一体的に進める必要性を指摘している。具体策として、LRT(超低床路面電車)やBRT(バス高速輸送システム)などの導入も掲げている。初期投資の大きさなどが課題だが、今国会で「改正地域公共交通活性化・再生法」が成立した。民間投資の呼び水となるような国の出資制度を設け、円滑な整備の後押しが期待される。
地域によっては、合意形成が進まないケースや自治体が計画作成に十分なノウハウやデータがないため、地域交通網の整備が滞っている現状もある。地方への積極的な支援が求められている。
『住民主導で交通空白地域を解消』
すでに地域公共交通の再構築に向けて取り組んでいる地域もある。
兵庫県豊岡市では、08年9月末に路線バス事業者が経営悪化を理由に大幅な路線休止に踏み切り、公共交通空白地域が発生。住民生活への影響が懸念されたため、市独自の輸送サービスを導入、市民の生活の足を確保している。
具体的には、市街地中心部を循環する「コバス」が市街地の回遊性を確保し、路線バスが市の中心部と地域の拠点をつなぐ。ただ、路線バスの休止地域には、市営バス「イナカー」を運行。「イナカー」が運行していない交通不便地域については、地域が運営する有償運送サービス「チクタク」を創設した。
「チクタク」は、地元住民で構成する運営協議会が主体で、運転手は地域住民がボランティアで行う。通院や買い物など生活の足として評判で、地域によっては、市営バス運航時に比べて利用者が6倍超に増加している。
市交通政策係の大岸勝也係長は、今後の課題として、運転手や運営スタッフの安定的な確保を挙げ、「持続可能な運行には世代交代を進めることも重要」と話している。
『中村文彦横浜国大副学長に聞く』
『既存インフラの活用進めよ/住民の声聞き、草の根の視点で』
――初の交通政策白書に対する評価は。
中村文彦氏 これまで、運輸事業に関する白書はあったが、今回の白書は、交通政策を「地方創生」に配慮しながら考察しており評価できる。地域公共交通を再構築する上では、運輸事業を安定化させる視点と地方で暮らす人々のモビリティ(移動性)を支える視点がある。今回、住民目線で書かれた点は画期的だ。
――政府は、今後の地域づくりのあり方として「コンパクト・プラス・ネットワーク■」を推進するとしているが。
中村 コンパクトなまちづくりが進むと、車を使わずに済む場面が増えて近隣の顔が見えてくるので、普段の付き合い方も変わる。地域の中で絆が育まれ、災害発生時に助け合う精神も育まれるなど、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)が豊かになる。コンパクトなまちで寄り添って住むメリットは多いだろう。
一方で、コンパクトシティをつくっていく過程の議論が不足している。例えば、人を1カ所に集めると別の地域の過疎化は進むが、こうした地域の空き家はどうするのか。1人、2人がそのまま残ってしまったらどう対処するのかなど課題は多い。コンパクトの概念の共有化も進めながら、あらゆる課題を想定した議論を進めていくべきだ。
地域公共交通は、集落同士や都市部をつなぐ「ネットワーク」を構築する上で重要だが、課題への対応が明確になれば整備しやすくなる。ただ、ある程度は交通網を先行整備し、まちづくりの進展を促すことも必要だろう。
――資金面で悩む自治体も多いが。
中村 安く済ませることができるものは安く済ます発想が必要だ。富山市で導入されて注目を集めるLRT(超低床路面電車)は、全国70程度の都市で導入したいとのリポートが出ている。悪いことではないが、LRTさえ入ればまちが良くなるとの発想に安易さを感じるし、既存の公共交通との関係についての議論が足りないと感じる。
実際に、ある自治体でコミュニティバスを導入するための委員会に参加したが、最終的には導入しない結論に至った。既存の路線バスを少し延長すれば問題が解決することが分かったからだ。住民からは、地域で余っている軽トラックを交代で運転したら住民の送迎に対応できるという声も出てきた。
要するに、今あるものを活用し住民の意向も踏まえながら整備を進める姿勢が重要だ。お金の掛かり方も全く違ってくる。インフラ整備は、施設整備事業ベースで考えがちだが、地域公共交通については、通常の輸送手段や草の根レベルで対応できることがまだまだあると思う。
――海外の地方公共交通ではどのような取り組みがあるのか。
中村 スウェーデンのヨーテボリ(地方都市)では、リクエストのあるところだけ回るバスを導入して、タクシー券配布に比べて補助金を節約している。アイデアレベルでは海外が断然先を行っている。そういう議論を日本でも行うべきだ。
■【コンパクト・プラス・ネットワーク】中山間地域などで、医療や福祉、商業などの生活機能を集約して「小さな拠点」を整備する。高齢者が安心して暮らせるコンパクトなまちづくりを進め、地域公共交通で周辺の集落や都市とのネットワーク構築を進める構想。14年7月に国土交通省が発表した「国土のグランドデザイン2050」で提唱している。