特別養護老人ホームやすらぎの園を運営する社会福祉法人寿生会が主催する講演会第10回生きがいフォーラム「何となく認知症~正しい理解とケアのために~」を拝聴して参りました。
講演は、国の審議会も歴任した高齢者の心理学の大家である筑波大学名誉教授井上勝也先生であり、ユーモアを交えて認知症を正しく理解する事ができたものです。
以下は、井上先生の講演の聞き覚えです。
認知症と、「ボケ」は違います。人の一生において知能は、赤ちゃんの時から25才位まで急速に伸長し、75才
位まで一定の水準を保ちます。その後、相応のスピードで大体に段階で知能の低下が起こるものです。この低下は、年齢と共に起こる普通のことであり「ポケ」はやむを得ない事です。しかし、認知症は、何らかの理由により、知能の低下、認知機能の低下が急速に発症することを指します。
人の記憶は、覚えようとする「記銘」、覚えている「保持」、思いだす「再生」から成り立ちます。一過性で忘れてい居るようでも少し時間をおいて思いだせばそれで良いと言えます。
認知症は、認知病(にんちびょう)と言わず、認知症(にんちしょう)と称します。まさに、認知症は病名ではなく、その症状を指すものです。つまり、風邪は病名であり、発熱は症状です。認知症は、かつて「痴呆」と言ったことがあります。現在は差別用語ですから使用しませんが、もし認知症の理解を分かりやすく言えば「痴」の文字のように、知の病気であり、知能の低下を指しているということになります。
では、認知症の病気とは何か。認知症の病気の9割程度は、①アルツハイマー型 ②脳血管性(まだらボケ) ③レヴィー小体型 に該当すると言われますが、更に5~6種類も病理として分類されます。①のアルツハイマー型はストレスの蓄積に原因があって脳神経にアミロイドβの蓄積により発症する言われていますが、現在治療法はありません。②の脳血管性は、脳卒中発作により、血管が募る脳梗塞によって脳神経細胞の障害が起こることが原因とされています。脳出血の場合は死に至ることが多く認知症以前の問題と言えます。③のレヴィー小体は、症状として幻視などあるもので、パーキンソン氏病との関係があるとされ脳幹に封入体が蓄積することが認められています。
認知症を予防する手立ては、まず、大きなストレスによる気力の喪失に注意する事。配偶者喪失や骨折による長期入院などによりストレスかせ抜け出せない状況を作らないことです。また、脳卒中に備えるべきですが、脳卒中は脳の老化と共にリスクを増すので、相対的に見てストレス対策が重要だと言えます。
私たちは認知症にどう無はあって行けば良いのか。認知症は、知能の低下が見られるものですが、言い換えれば「自分が誰か分からないという記憶喪失の先にある」ものと言えます。自分が誰か分からないとは、「セルフ・アイデンティティ(自己同一性)喪失」であり、症状は「人格の退行現象としての幼児化子供化」と言えます。ですから、こと二つへの対応が重要です。
アイデンティティの喪失においては、本人の記憶の底にある自分自身を自分と認める事柄への回帰が必要です。例えば、女性であれば化粧療法により、「お化粧してきれいね」と声掛けすることで本来女性であることを呼びもどすことで効果が認められます。男性の場合は、かつての社会的な地位や職業をして「支店長」「社長」とかの声掛けが有効です。これらは、かつての自分自身への自己同一性への回帰といえます。
人格の退行現象である幼児化や子供化は、徘徊や異食など、迷子は迷老であり、赤ちゃんのおしゃぶりが認知症の一般的な症状と理解すべきです。この対応は、①過去や現在ではない「今ここで」での子供の世界を理解する事 ②「言い聞かせ」は無意味であることを知る事 ③安心感を与える「スキンシップ」が大切である事 といえます。
いったい認知症は私たちに何を訴えているのでしょうか。考えてみれば、「赤ちゃんは王様」です。限りなく周囲に守られます。これが認知症に対する回答と言えないでしょうか。認知症は、苦しみや痛みから発症したものでは有りません。その意味で、①現在に生きていることの意味を考えれば、認知症とは言え、忘却することは救いではないでしょうか。②子供帰りの退行症状は、母の無限の優しさへの欲求であり回帰てす。神様の企みと言っても良いのです。③そして、病気の人を憎まないことが最も大切です。
以上でしたが、認知症への理解が深まったと思います。加えて、認知症の方にとって何がアイデンティティなのかを知ることは本当に大切なことです。認知症により人生の歴史が振り返られ、その方の人生の結果が詳らかになるとすれば、私たちは静かにその現実を受け入れなければなりません。長寿社会になって私たちは人として一層人間らしく生きなければならないと教えて頂いたように思います。