【民間事故調】安全神話を作る「原子力ムラ」、悪しき構造を廃絶しなければならない。

 先日、東京電力福島第1原発事故に対する民間事故調の調査・検証報告書を買い求めました。
 400ページを超える文書であり、なかなか読破し理解に至りません。「真実を知りたい」が国民の本心です。客観的な事実の積み重ねを詳らかにするとことを求めてやみません。権力機構は、真実を隠し、都合の良い情報の漏えいによって国民を誘導し欺く傾向があります。真実の中の嘘とね嘘の中に真実を見抜くことは難しい。そして、国民もまた自己責任により、事実を受け止め、次なる行動を起こす必要があると考えます。
 そんな大上段な気持ちも手伝って購入しましたし、少しずつですが読み始めました。
 さて、そんな中、公明新聞に本調査報告書についての記事がありましたのでご紹介します。
 民間の有識者による「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」が公表(2月27日)した報告書について、明治大学危機管理研究センター所長の市川宏雄氏と公明党幹事長代行、党東京電力福島第1原子力発電所災害対策本部長の斉藤鉄夫氏に語ってもらった。 
 『問われたリーダーの資質/徹底検証もとに改善必要/明治大学危機管理研究センター所長/市川宏雄氏』
 ――民間事故調の調査報告書を読んだ感想は。
 市川所長   権限のない民間の調査委員会に、多くの第一線の研究者が参加したことにとても驚きました。
 また、菅前首相をはじめとする当時官邸にいた政治家や官僚などの当事者が多数証言に加わっています。取材を拒否した東京電力はともかく、皆、事故の真相究明を避けて通れないと感じたのでしょう。
 内容についても、事実を丁寧に探り、政府事故調では触れられない部分にも踏み込んでいます。
 今後の危機管理体制改善の議論のもとになる貴重な資料だと感じています。
 災害や事故の対応には常にリーダーの存在が重要です。今回は事故対応がうまくいかなかった原因の一つに、首相たる菅氏のリーダーとしての資質が問われることになりました。
 だが、菅氏でなければ、どういう結果だったかという模擬実験がありませんので、どの程度のリーダーシップの発揮が必要だったかとの解答はありません。
 
 ――仮に違う内閣だったら別の結果になっていたと考えますか。
 
 市川    日本では、官僚機構が専門性を持って対応してきた歴史があり、官邸はその意見を聞き判断するため、同じような結果になったかもしれません。
 しかし、今回は民主党政権が脱官僚を進めた後の事故であり、官僚機構のいい面での寄与が薄くなってしまったのは事実です。
 また、官邸は中央から現場をコントロールしようとしましたが、事故の場合は、現場の自主的な対応でしのがねばならないことも多い。それは相次ぐトラブルへの対処を現場は速やかに行わなければならないからです。実際、福島第1原発の吉田所長(当時)の機転が最悪のシナリオを防ぎました。
 
 ――政府が国民の求める情報発信をできなかったとの指摘もありますが。
 
 市川    国民は危機になればなるほどリーダーに頼りたくなります。菅氏は以前からパフォーマンスが多く、国民の信頼を得るだけの状況にありませんでした。
 その上、今回の事故における官邸の混乱の中で、国民に政治の素人ぶりが見えてしまいました。それがますます不安をあおることになったと思います。
 一方、放射性物質の拡散予測システム「SPEEDI」の公表見送りなどの政府の情報隠しが指摘されていますが、その是非は、判断の難しい面もあります。
 なぜなら、原発20キロメートル圏内の数十万人が避難する中でパニックが起きて混乱したかもしれません。官邸は明らかにこれを恐れ、情報を隠し続けました。
 しかし、現地で避難していた人々に放射能から逃げるべき方向を示さなかった罪は極めて大きい。 
 この配慮不足の政府の対応については後世が評価するしかありません。
  
 ――今後の事故防止にどう活用すべきですか。
 
 市川    危機管理の基本は過去の失敗に学ぶことです。今回の原発事故も、この事実検証をもとに改善していくことが必要です。でなければ、喉元過ぎれば……となってしまいます。
 ただ、検証を踏まえ、どれだけ完璧な改善を加えても、事故は必ず見過ごしている点を突いてくることを忘れてはなりません。
 
 いちかわ・ひろお 1947年、東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒。同大学院博士課程を経て、カナダのウォータールー大学大学院で博士(Ph.D)を取得。97年から明治大学教授。現在、明治大学専門職大学院長、公共政策大学院ガバナンス研究科長を兼任。
 
 『官邸「泥縄的危機管理」浮彫り/しがらみない検証を評価/党東電福島第1原発 災害対策本部長/斉藤鉄夫幹事長代行』
 
 ――民間事故調の報告書をどう見ますか。
 
 斉藤幹事長代行    政府事故調や東電の中間報告は、原発内で起きた物理的事実の解明が中心でしたが、民間事故調の報告書は、関係者の聞き取りを基に、政府や東電の対応も検証しています。
 これだけ甚大な被害をもたらした事故について、関係者の利害に関わるからといって、真相を闇に葬ることなど、到底許されません。しがらみのない立場で、しっかりとした検証作業が行われたことは、高く評価されるべきだと思います。
 
 ――報告書では、事故は「『人災』の性格を色濃く帯びている」と指摘しています。
 
 斉藤    民間事故調は、「全電源喪失」という事態への備えを全くしていなかった東京電力の組織的怠慢を追及し、「人災」という言葉で厳しい評価を下しています。こうした致命的な欠陥を長い間放置してきた責任は、重いと考えます。
 
 ――官邸の対応についても厳しく指摘しています。
 
 斉藤    当時の菅首相が「パニックと極度の情報錯綜」で疑心暗鬼に陥っていたことは関係者の証言から明らかです。官僚不信で、外部の専門家と携帯電話で連絡を取って対応を決めていたことについても、「何の責任も権限もない、専門知識だって疑わしい人たちが、密室の中での決定に関与するのは、個人的には問題だと思う」(官邸中枢スタッフ)との指摘の通りです。
 当時の官邸の対応について「無用な混乱やストレスにより状況を悪化させるリスクを高めた。場当たり的で泥縄的な危機管理」との評価を、政府は真摯に受け止めるべきでしょう。
 
 ――特に、3月12日の菅首相のあの現場訪問も「さらなる混乱を招いた」と指弾しています。
 
 斉藤    菅首相の突然の訪問に対し、現場で事故対応に当たっていた当時の吉田所長は、東電本店に「私が総理の対応をしてどうなるんですか」と難色を示しました。当然のことです。
 事態が切迫しているにもかかわらず、首相訪問への対応に所長をはじめ、東電の幹部陣が当たらざるを得なくなり、事故への対応を遅らせる要因となりました。しかも、報告書はベント(気体を抜く操作)について、「首相の要請がベントの早期実現に役立ったと認められる点はない」と、首相訪問の成果を明確に否定しています。官邸の稚拙な対応が混乱を助長した最たる例です。
 
 ――放射性物質の拡散予測システム「SPEEDI」のデータが公表されなかったことについては。
 
 斉藤    報告書では、そもそも菅氏ら官邸トップが、その存在すら知らなかったことが証言から裏付けられています。仮にデータが公表されていれば、住民が何度も避難を強いられるような事態は回避できた可能性が高いと言えます。
 
 『民間事故調とは』  
 『福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)』
 民間の立場から東京電力福島第1原発事故の検証を独自で進める調査組織。科学者や弁護士など6人の委員からなる有識者委員会のもと、約30人の研究者や弁護士、ジャーナリストで構成されたワーキンググループが調査。政治家への聞き取り調査や公表資料などをもとに報告書をまとめた。
 ◆報告書の骨子◆
 ・マニュアルの複合災害への想定不備と官邸の災害対策法制への基本認識が不足
 ・官邸の東電と保安院への不信感により情報共有が疎かになった
 ・官邸による現場介入で有効だった事例は少なく、無用な混乱やストレスにより状況を悪化させた
 ・政府全体の危機対応の観点から、菅前首相の個性が混乱や摩擦のもととなった
 ・政府は国民の不安に応える情報提供者としての信頼を勝ち取れず、国民に根深い不信感を広げた
 ・SPEEDIは宝の持ち腐れに終わった
 ・「原子力ムラ」が生み出した原発の「安全神話」が事故の遠因となった