三党合意に対する全国紙の論調は、概ね「決められない政治」からの脱却の形として評価されているものと思われます。
ここでは、朝日・読売・毎日・日経・産経各紙の社説を引用して、各紙の論考を留めたいと思います。下線は八島です。
朝日新聞 2012年6月16日(土)
社説: 修正協議で3党合意―政治を進める転機に
多大な痛みを伴うが、避けられない改革だ。
社会保障と税の一体改革をめぐる修正協議で、民主、自民、公明の3党が合意した。
多くの政策課題が積み残しになった。民主党内の手続きも予断を許さない。それでも、この合意が「決められない政治」を脱する契機となることを願う。
高齢化の進展に伴い、年金や医療、介護の費用が膨らむ。
低賃金の非正社員や、頼れる身寄りもなく子育てをする人が増えて、支援を求めている。
財源が要る。それを借金に頼り、子や孫の世代に払わせるのは、あまりにも不誠実だ。
なぜ「決められない政治」に陥ったのか。それは、政治家が厳しい現実と向き合うことから逃げてきたことが大きい。
経済が右肩上がりで伸び、税収が自動的に増えた時代はとうに終わった。
だが、選挙で選ばれる政治家は有権者に負担を求めるのが苦手だ。財源のあてもなく、あれもこれもやると公約するから実現できない。だれかが苦い現実を説くと、必ず甘い幻想を振りまく反対勢力が現れ、前へ進むことができない。
「ねじれ国会」のもと、その弊害は目を覆うばかりだ。
それだけに、国民に苦い「増税」を含む改革に合意した意味は大きい。
それは、政権交代がもたらした計算外の「成果」かもしれない。ばら色の公約を掲げて政権についた民主党だが、財源を見いだせず多くの公約をかなえられなかった。
自民党に続き、民主党も政権運営の厳しさを学んだ2年9カ月だった。
合意は、両党の隔たりが実は小さいことも教えている。
独自色を出そうにも、財政の制約のなかでは、現実にとりうる選択肢は限られる。だから修正協議の主な争点は、法案そのものではなく、新年金制度など民主党の公約の扱いだった。2大政党が一致点を探り、実現していく例は増えるだろう。
ただ、それには一長一短がある。政治が動くのはいいが、今度はその方向が問われる。
たとえば自民党は、3年で15兆円を道路網の整備などにあてる国土強靱(きょうじん)化法案を提出している。時代の変化を見据えず、公共事業頼みに逆戻りするような主張をどう扱うのか。民主党も問われることになる。
それでも、争うばかりの政治は卒業しなければならない。
民主党執行部が、反対派にひるまず一体改革に党内の了承を取り付ける。それが出発点だ。
朝日新聞 2012年6月16日(土)
社説:修正協議で3党合意―一体改革は道半ばだ
社会保障をめぐる修正協議では、民主党が掲げてきた「最低保障年金の創設」と「後期高齢者医療制度の廃止」を棚上げしたうえで、子育て支援などで一定の合意を得た。
それ自体は、賢明な選択だ。もともと新年金や高齢者医療の見直しは、消費増税と直結する一体改革とは別の問題である。自民党が提案した国民会議で議論するのが望ましい。
しかし、一体改革での合意には、問題が山積している。
まずは現役世代への支援の柱となる子育ての分野だ。
消費税収から7千億円の財源が確保される意義は大きい。
民主党が、看板とした「総合こども園」の創設をあきらめ、自公政権下に始まった「認定こども園」の拡充で対応するとしたことも評価する。
看板にこだわるより、厚生労働省と文部科学省の二重行政を解消し、幼保一体化の施設を広げて待機児童を減らす実をとる方が国民のためになる。
心配なのは、自民党に家族をことさら重視したり、既存の事業者に配慮したりする姿勢が目立つことだ。
たとえば、「0歳児への親が寄り添う育児」との主張は、雇用が不安定な親が増える中で、ないものねだりにすぎない。
株式会社などの新規参入を警戒することも、都市部で小規模な保育所を増やすといった多様な対策の手を縛りかねない。
より問題なのは税制分野だ。消費増税に伴う低所得者対策が先送りされただけではない。
政府の法案に盛り込んでいる相続税と所得税の強化策が削除され、今後の論議にゆだねられることになった。これも自民党の主張である。
法案は、相続税で遺産額から差し引ける控除を縮小しつつ最高税率を50%から55%へ引き上げる。所得税では、課税所得が5千万円を超える人に限って税率を40%から45%へ引き上げる――という内容だ。
社会保障負担を分かち合うために国民に広く消費増税を求めるからには、資産や所得が豊かな人への課税を強化し、再分配を強めることが不可欠だ。相続税と所得税の強化策をお蔵入りさせることは許されない。
修正協議では、自民党の主張ばかりが目についたが、家庭に依存する子育て政策の転換を訴え、富裕層への課税強化を主張する公明党には、今後の詰めで存在感を示してほしい。
社会保障を国債に頼る構造を改め、現役世代を支援し、所得再配分を強める。一体改革の理念を忘れてはならない。
(2012年6月16日01時17分 読売新聞)
一体改革合意 首相は民主党内説得に全力を(6月16日付・読売社説)
長年の懸案である社会保障と税の一体改革の実現に向けて、大きな前進と、歓迎したい。
民主、自民、公明3党が、一体改革関連法案の修正協議で合意した。当初の予定通り、今国会会期末の21日までの法案の衆院通過を目指す。
社会保障分野に関する各党の主張に隔たりがあり、交渉は難航したが、各党が譲り合い、合意を形成したことは高く評価できる。これを「決められる政治」に転じる貴重な一歩としてもらいたい。
野田首相は、自民党の対案を基本に合意をまとめるよう民主党の交渉当事者に指示し、年金制度や子育て支援策で大幅に野党に歩み寄る決断をした。
自民党も、これに呼応し、自民案の「丸のみ」という要求を取り下げて譲歩した。野党ながら、自民党が果たした役割は大きい。
焦点だった最低保障年金の創設と後期高齢者医療制度の廃止については、民主党の政権公約(マニフェスト)の撤回にこだわらず、一時棚上げして、「社会保障制度改革国民会議」で結論を出すことで折り合った。
自民党が撤回に固執すれば、民主党の増税反対派に加え、中間派も反発して党分裂含みになり、採決が困難になる恐れがあった。
民主党の公約撤回に強くこだわっていた公明党も、3党合意に自党の主張が一定程度反映されたことを評価し、最終的に合意に加わった。この意義は大きい。
一体改革は、どの党が政権を取っても取り組まざるを得ない中長期的な重要課題である。できるだけ多くの党が賛成して、法案を成立させることが望ましい。
社会保障改革の結論が先送りされたことを、単純に「増税先行」と批判するのは間違いである。
増税の実施は再来年4月だ。1週間の修正協議で強引に結論を出すのと比べて、1年間かけて国民会議で議論し、より良い政策をまとめることは悪くない。 今後は、民主党が今回の合意内容を了承して採決に臨めるかどうかが、最大の焦点となる。
小沢一郎元代表らは、「増税より前にやるべきことがある」との相変わらず無責任な論法で、増税反対勢力の多数派工作を展開し、野田首相を揺さぶっている。
民自公3党が合意したのに、政権党の足並みが乱れ、採決ができないような事態は許されない。
一体改革の成否がかかる正念場だ。首相は、党内の反対を最小限に抑えるため、まさに政治生命を懸けて党内を説得すべきだ。
毎日新聞 2012年06月16日 02時30分
社説:民自公修正合意 「決める政治」を評価する
2大政党の党首が主導し、政治は崖っぷちで踏みとどまった。税と社会保障の一体改革関連法案の修正協議で民主、自民、公明3党が合意した。焦点の社会保障分野は民主党が公約した最低保障年金制度創設などの棚上げで歩み寄った。
民主党政権の発足以来、初めてとすら言える「決める政治」の一歩であり、歴史に恥じぬ合意として率直に評価したい。だが、民主党内の対立は分裂含みで激しさを増しており、今国会成立というゴールまではなお、不安要因を抱えている。
野田佳彦首相は党内のかたくなな反対勢力と決別し、ひるまず衆院での採決にのぞむべきだ。より広範な国民理解を実現するため、参院での審議などを通じ与野党は制度設計の議論を続けねばならない。
党分裂おそれず採決を
民主党にとって譲歩に譲歩を重ねてようやくつかんだ、満身創痍(そうい)の合意である。とはいえ、首相が政治生命を懸けた消費増税で主要3党の共通基盤を築いた意味には極めて重いものがある。
民主、自民両党とも複雑な内部事情を抱えつつ合意にたどりついたのは、日本が抱える財政危機の深刻さの裏返しだ。国と地方の債務残高が1000兆円規模に達する中で、増加する社会保障費への対応を迫られるという異常な状態だ。「決められない政治」からの脱却を目指し、混乱を回避することで既存政党が最低限の責任を果たしたといえよう。
一方で、多くの課題を先送りしての決着であることも事実だ。さきの衆院選公約で民主党が掲げた最低保障年金の創設や後期高齢者医療制度の廃止は財政の状況や見通しを踏まえて有識者会議で議論し結論を得るとされ、棚上げされた。新たな年金制度の実施に必要な財源や、現行医療制度を廃止した後の枠組みで民主党は説得力あるプランを示せなかった。大幅譲歩はやむを得まい。
自民党は年金、医療で現行制度を基本とする「社会保障制度改革基本法案」の受け入れを求め、民主党に公約撤回を迫った。決裂も一時は危ぶまれたが、谷垣禎一自民党総裁は対案の修正で矛を収めた。
野田内閣の足元をみて民主党をカサにかかって攻め立てただけに、自民党内にも不満が残る決着の仕方かもしれない。だが、年金、医療制度の不信や今日の危機的な財政状況を招いた責任の多くは自民党にあることを忘れてはならない。民主党の分裂や揺さぶりに血道をあげるばかりでは、逆に国民の反発を生んだに違いない。
課題を残したのは、消費税率を2段階で10%まで引き上げる税制改革の制度設計も同様である。低所得者対策として、臨時に現金を出す簡素な給付措置では合意した。最も効果的な対策である軽減税率の導入は検討対象とされたが、実質的な結論は先送りされた。
各種世論調査で消費増税への理解がなお浸透していない事実を軽視してはならない。公明党は今回の協議で8%からの軽減税率の導入を主張した。参院の法案審議などの場面を通じ、国民理解をより広げるためにも議論の継続を求めたい。
当面の焦点となるのは、民主党の党内手続きである。3党が賛成すれば衆院通過は動かぬ情勢とはいえ、首相が衆院採決に向け、どれだけ多数を掌握できるかが問われる。
より理解を得る税制に 修正協議で大幅譲歩を強いられた反発が「中間派」と呼ばれる勢力にも渦巻いている。看板政策の棚上げに不満が出ることはむしろ自然だ。なぜ、この合意に至ったかを首相や執行部が説明し、協力を求めるしかあるまい。
一方で、理解しがたいのは政府・与党が大綱で決めたはずの方針に公然と反旗を翻し、反対運動を展開している小沢一郎民主党元代表らの動きだ。修正協議での大幅譲歩を念頭に「自殺行為」「国民に対するぼうとく、背信行為」と批判するが、本質はあくなき権力闘争である。
東日本大震災で被災地の復旧を迫られるさなかに民主党内の亀裂をさらした昨年6月の内閣不信任決議騒動と同様、小沢元代表を軸とする内紛は負の要因以外の何物でもない。もはや、同じ政党に水と油の勢力が居続けることは限界を来している。
首相が会期末となる21日までに採決に踏みきることは当然だ。加えて、造反議員に対しては除名を含め断固たる処分でのぞむべきだ。
首相は近く谷垣総裁との党首会談を行うとみられる。衆院での法案採決はもちろん、自民党が要求する早期の衆院解散と一体改革法案の処理をどう絡め、法案成立に必要な会期延長の幅をどうするかなどはなお、見通せていない。
衆院議員の任期満了まで1年余となり、総選挙は次第に迫っている。社会保障の将来像は新設される会議に委ねられた。だが各党が責任ある案を練り、合意の前に国民の審判を仰ぐのもひとつの方法だろう。
その意味でも、違憲状態が放置されている衆院「1票の格差」を是正する最低限の措置を与野党は一日も早く講じる責任がある。せっかく歩み始めた「決める政治」を壊してはならない。
日経新聞 2012/6/16付
社説:首相は消費増税の実現へひるむな
社会保障と税の一体改革の関連法案の修正を巡り、民主、自民、公明3党が基本合意した。財政の健全化へ踏み出す第一歩として歓迎したい。あとは野田佳彦首相が民主党内の反対にひるむことなく採決へ突き進む気概があるかどうかだ。
民主党の輿石東幹事長は党内融和を最優先し、3党合意をすぐに履行することに後ろ向きだ。21日までの今国会の会期を延長せず、法案審議を丸ごと秋以降に先送りすることもあるという。
社会保障は効率化を
首相は今国会での法案成立に政治生命をかけると断言した。意に沿わない執行部ならば党分裂も覚悟で入れ替えるしかない。
国が抱える借金は1000兆円規模に膨らんだ。国内総生産(GDP)の約2倍である。歳入の確保と歳出の抑制をともに実施しなければ、本格的な財政再建はおぼつかない。
3党は現行5%の消費税率を2014年4月に8%、15年10月に10%まで引き上げることで一致した。日本経済にかかる負荷を和らげるため、2段階で税率を引き上げるのは妥当である。
景気への配慮は必要だが、経済が大きく落ち込まない限り、安易に消費増税を先送りすべきではない。景気情勢を見極めながら増税の是非を判断する弾力条項を、増税回避の口実に利用されないよう注意しなければならない。
残る課題は消費増税の負担が相対的に重くなる低所得者への対策である。3党は税率を8%に引き上げる14年4月に、一定額の現金を配る「簡素な給付」を実施する方針だ。
現金給付と税額控除を組み合わせた「給付付き税額控除」を導入するか、食料品などの「軽減税率」を採用するかについては、結論を先送りした。低所得者への対応策は、ばらまきに陥らないように設計する必要がある。
一方、年金の持続性の向上や医療保険財政の立て直しに向けた社会保障改革は一部の手直しで済ませ、根幹の部分は棚上げした。
幼稚園と保育所を一体化する「総合こども園」を撤回し、低所得者への年金加算を修正した。民主党が公約した最低保障年金の創設や後期高齢者医療制度の廃止に関しては、今後1年かけて結論を出すという。
各党は早急に政策協議の場をつくり、将来を見据えた年金・医療の抜本的な改革案を示したうえで、それを実行する責任を共有すべきである。そうでなければ一体改革の名に値しない。
社会保障の給付費が膨らむのを抑えるには、高齢者に応分の負担を求める必要がある。だが3党は給付抑制や制度の効率化を避けている。年金は、改革の全体像を示さないまま低所得者への大幅な加算を認めるなど、ばらまき色が濃くなった。これでは穴の開いたバケツに水を注ぐようなものだ。
厚生年金と公務員などの共済年金との一元化は、それぞれが抱える積立金の統合方法について、厚生年金の会社員側に不利なしくみになっている。一元化は急ぐべきだが官優遇の温存は許されない。
医療保険の財政立て直しは先送りされた。高齢者が使う医療費をどの世代がどう分担するのか、基本的な考え方がいまだに曖昧だ。病気やケガをする可能性が高く、保険制度になじみにくい後期高齢者の医療費には税の投入を増やし、現役世代や経済界を苦しめている支援金などを減らすべきだ。
成長の促進も不可欠
70代前半の人の窓口負担を本則の20%にしたり、外来受診時に定額の負担を上乗せしたりする案をもう一度、議論の俎上(そじょう)に載せてほしい。
増税の使途もみえにくくなった。政府・与党は5%の税率引き上げのうち4%を現在の社会保障費の赤字補填に、1%を給付の充実にあてるとしてきた。総合こども園の撤回などで使途を修正するなら、説明責任を果たすべきだ。
一体改革法案が成立しても、財政再建は一歩を踏み出すにすぎない。内閣府によると、消費税率を10%に引き上げても、20年度には基礎的な財政収支の赤字が残る。黒字に転換するという野田政権の目標達成には、16%まで上げなければならない計算だ。
消費増税だけで財政再建はできない。行政府と立法府の支出を見直し、独立行政法人<を含め無駄な歳出を徹底して削る必要がある。社会保障費も例外ではない。さもなければ、増税だけが際限なく膨らむ恐れがある。法人減税や自由貿易を通じて経済成長を促し、税収を底上げする工夫も不可欠だ。
産経新聞 2012.6.16 03:12
【主張】3党合意 社会保障抑制は不十分だ 「決められぬ政治」回避したが
消費税増税関連法案の修正をめぐる民主、自民、公明3党の協議が決着した。社会保障の安定財源確保のために避けられない消費税増税などが、与野党の合意で実現される見通しとなった。
野田佳彦首相が期限とした15日までの修正合意に何とかこぎつけ、「決められない」政治を繰り返す事態が回避できたことは評価したい。
指導者が決断しない政治から脱却しなければ閉塞(へいそく)感は増し、日本の危機は克服できないからだ。財政健全化の取り組みを国内外に示すこともできた。
問題は、修正合意で社会保障制度改革の多くが先送りされた結果、伸び続ける社会保障費の抑制に道筋をつける内容とは程遠いものにとどまったことである。
≪高齢者にも負担求めよ≫
平成26年4月に8%、27年10月に10%と消費税率を2段階で引き上げることは民主、自民両党間で早々に合意された。
だが、社会保障分野の改革が置き去りにされたままなら、社会保障と税の一体改革ではなく「増税先行」でしかなくなる。
日本は高齢者が激増する一方で勤労世代の負担が限界に近付きつつある。高齢者を含め、支払い能力に応じて負担する仕組みに改めない限り、社会保障制度そのものが維持できない。直ちに現実的な改革案をまとめ直すべきだ。
年金、医療、介護費用の抑制方法を決めなければならないのに、現在、国会に提出されている政府の法案は、国民に痛みを求める改革項目をことごとく外し、むしろ社会保障費の膨張を加速させる内容となっている。
これに切り込んで現実的な案へと転換させるためには、70~74歳の医療費窓口負担の2割への引き上げやデフレ下で年金額を下げる自動調整の仕組みの導入、年金の支給開始年齢の引き上げなど、政府案が先送りした負担増や給付削減項目を盛り込むことが不可避だったはずだ。
ところが、修正協議では最低保障年金や後期高齢者医療制度の廃止といった民主党マニフェスト(政権公約)の見直しに議論が集中した結果、個別の社会保障改革は政府の関連法案に沿った形で決着してしまった。
結局、最大の焦点だった最低保障年金や後期高齢者医療制度廃止は撤回されず、協議を決裂させないための妥協として、新たに設ける「社会保障制度改革国民会議」での議論に棚上げされた。
だが、莫大(ばくだい)な費用を要するなど非現実的な制度である以上、民主党は撤回するしかない。3党は、すぐに導入できる他の短期的課題についても早急に検討し直さなければならない。
野党側も社会保障費の抑制を具体的に提起しなかった。それどころか、低所得の高齢者向け「給付金」という新たなバラマキ政策まで決まった。改革に逆行するものと指摘せざるを得ない。
≪経済成長こそ実現を≫
3党は現在の政府案を修正して今国会で成立させる考えだが、これでは少子高齢社会に耐えられる制度とは言えない。与野党ともに無責任との批判は免れない。
税制分野では、消費税の税率引き上げに向けた「名目3%、実質2%」という成長率の数値目標をめぐり、自民党が撤回を求めたのに対し、努力目標として残したのは当然だ。
だが、名目成長が実質成長を下回るデフレからの脱却を図るための具体策は示されていない。規制緩和による新規参入の促進など、与野党で日本経済の活性化につながる対策をさらに講じていかなければならない。
また、消費税率を8%に引き上げる際に、低所得者に現金を給付する措置も決まった。給付額などは今後の予算編成で詰めるが、給付先を広げると新たなバラマキになる恐れがある。
税率を10%にする際の低所得者対策は結論を先送りした。政府案は減税と現金給付を組み合わせた「給付付き税額控除」としたが、自民、公明両党は生活必需品などの税率を低く抑える「軽減税率」を主張している。
民主党内では小沢一郎元代表ら増税反対派が修正合意に反発し、法案採決で造反する構えを見せている。政権与党が分裂する事態も予想される中で、首相には修正合意の実現を成し遂げる指導力と覚悟を見せてもらいたい。