イメージが事実に反するときどうすればよいのか。

「イメージが恐ろしい」と思うことは多々である。そして、「なかなか変えられない」ことは苦痛であるとも思う。

「イメージ」が第一印象により醸成されいることが多いとすれば、人に会うことに緊張することになるし、人伝えであれば、もうお手上げではないか。

しかし、必ずしも悪いイメージだけではないはず。良いイメージもなければやってはいられない。

事実と違う情報の流布は、真実の数字や事象をどう捉えるのかを問うたときに、判然となるものだ。悪意のある喧伝には、真実の友と連携して真実の流布を目指そうと思う。

この議論はなかなか進みません。

さて、今日の毎に次新聞の2面「時代の風」の藻谷浩介氏のコラムは、藻谷さんらしいロジックで迫ってくると気持ちを動かされました。そこで、私のメモとしてここに。
時代の風

事実に反する“イメージ” 流されてはいけない=藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員
.
筆者はブログやフェイスブックやツイッターなどの、いわゆるSNSに手を付けない。一番の理由は、思い込んだままにうそを書くのを避けるためだ。新聞や雑誌への寄稿、それにきちんとした出版社からの出版であれば、校閲がファクトチェックをしてくれるので、文字での発信はもっぱらそっちに絞っている。

しかるに世間には、ファクトチェックなきネット言論の形成する“イメージ”を信じ、それに反するマスコミの記事を「マスゴミ」呼ばわりする本末転倒の傾向が見受けられる。事実に反する“イメージ”がいかに根を張っているか、つい先日も身をもって体験したので、ご紹介したい。

某大手出版社から久々に出す単著のあとがきに「日本は2016年、中国(+香港)から3兆円の経常収支黒字を稼いだ」と書いたところ、校閲から編集者経由で「政府統計等の裏付けを見つけられませんでしたので修正させてください」との知らせがあった。「中国+香港です。再度確認ください」と返信したら、「中国の統計(香港経由を含む)では対日赤字ですが、日本側では日本が対中赤字と言っています」と返って来た。「この校閲係は原数字を見ていないな」と気付き、財務省のホームページにある「国際収支状況」のアドレスを示して、ようやく先方の確認を得たのだ。

それにしても「日本経済は中国に圧倒されている」という世の“イメージ”と正反対の事実を書いただけで、原数字の確認もなしに筆者の方が間違っていることにされたのは勉強になった。16年は、日本の経常収支黒字の最大の源泉は米国、2番目が中国であり、国内総生産(GDP)世界3大国の中では日本が独り勝ちだ。さらに日本は、韓国、台湾、英国、ドイツなどからも、大枚の黒字を稼ぎ出している。だがこうした事実は、「ダメな日本経済」という“イメージ”に反するからなのか、国民にまったく認識されていない。

ちなみにこれは3度目だ。「日本は対中赤字」と語るエコノミストに「対香港の収支を加えれば日本が黒字ですよ」と指摘したら、「中国に香港を足すなんて考えたこともない」と言われたのが最初である。人民元と香港ドルが別通貨なので対中と対香港の収支は別々に出るが、香港は中国の主要貿易港の一つであり、日本から中国へ輸出する製品の相当数が香港経由だ。だから対中と対香港の収支を足さないと実態は分からないと、以前にある商社マンから教えていただいたのだが、忠告をお裾分けしたら逆切れされてしまった。

2度目は昨年、自民党のある参議院議員(教養も見識もある方)が、「藻谷さん、中国は対日黒字ですよ」と語るので、「香港を足さなくては」と指摘したら、スマホで数字を確認して納得されていた。しかし政治家の多くはそういう確認もせず、「日本は中国に負けている」という自虐的“イメージ”にのっとって、バイアスのかかった政策判断を下したりしているのではないだろうか。

沖縄県名護市長選で、辺野古沖海上への軍用滑走路新設反対を明確にした現職が、「経済活性化」を掲げた新人に敗れた。これだけ聞くと「名護の景気はさぞ悪いのだろう」と感じられる。だが実際には同市の人口増加率(10年→15年、国勢調査準拠)は、人口5万人以上の全国522市町の中で上から64番目、3大都市圏を除いた296市町の中では22番目であり、「これが“不振”なら“活性化”とは何か」と聞きたくなる。人口増加の原動力は、沖縄県内最大級のリゾートホテル集積であり、米軍基地の市内での増強は、こうした滞在型観光地としての経済活性化の未来に真正面から水を差すものである。

付け加えれば、新設予定の海上滑走路は大地震の巣・沖縄トラフに正対する。「津波リスクのある沖縄東岸の洋上に、軍用滑走路を設けるのは無謀だ」と指摘しているのは筆者だけではないが、なぜか大きな話題になったことがない。航空自衛隊松島基地の航空機28機が、東日本大震災の津波で失われたという事実も、「辺野古沖が最適」という根拠不明の“イメージ”の前に、すっかり忘れられてしまっている。だが筆者は今年も“イメージ”に反する事実を書き続ける。「事実は提示されたが“イメージに負けた”」という事実だけでも、後世に残すために。=毎週日曜日に掲載