クリントン氏の敗北とねばねばの床 新聞記事から

 少しばかり時間が空いたとなれば、机の整理をしなければと、いつも思い立ちます。
 すると必ず放置された資料に目が留まり、同時に手が止まるのがいつもの事です。
 さて、今日、目に留まり、手が止まったのは、新聞の切り抜きです。日付の部分が切り取られ発売日が分からないので調べると12月9日付のようです。
 記事は、毎日新聞ロサンゼルス支局長野宏美貴社のオピニオン。「米大統領選 クリントン氏の敗北」とのタイトルです。
 私は、米大統領選挙が、“トランブ氏の勝利と言うよりクリントン氏の敗北”とする見方に動かされます。そして、女性記者の女性の視点から、「女性票をつかめなかった理由の一つは、男性指導者と同様の『タフさ』を重視したことだと思う。『男性と同じなら、女性がリーダーである必要はない』」が記憶に留まりました。
 そして、「有権者に感情に訴える力が不十分だった」とも記しています。「理屈よりも感情を揺さぶる力」が選挙の勝敗の鍵を握るというものです。
 米国民は、「現状維持」より「変化」を求めました。既成政治への「ノー」は日本でも起こっているように見えます。ここが今年の政治のポイントと思われます。
 加えて、この新聞では、発信箱に「ねばねばの床」と福本容子論説委員がコラムを寄せています。
 女性の社会進出を阻む日本社会の根強い現象を指して、
 一つは、女性の昇進を邪魔する「ガラスの天井」。
 二つは、張り付いてなかなか抜け出せない低賃金の「ねばねばの床」
 これは、配偶者控除引き上げの議論を指してのものですが、民進党蓮舫代表の言う「ガラスの天井」や働く主婦の「ねばねばの床」は、単純ではない複合的な要素を含んで女性の社会進出を阻んでいると深く理解したいと思います。
 以下は、記事の抜粋です。
 米大統領選 クリントン氏の敗北
 「ノー」の重い問いかけ
 11月の米大統領選では、共和党候補ドナルド・トランプ氏が勝利したというより、民主党候補ヒラリー・クリントン氏が敗北したと感じる。私は有権者ではないが、心の中で白票を投じた。事実に基づかないトランプ氏の主張は嫌悪したが、最後までクリントン氏を選びたい気持ちが起きなかった。大統領夫人、上院議員、国務長官の経験者としての「既得権の代表」のイメージから抜け出した姿が描けなかったからだ。1年以上にわたる選挙戦の現地取材で出会った米国人の多くも、既成政治に失望し、「チェンジ(変化)」を求めていた。
見えづらい信念 感情にも響かず
 クリントン氏は今回、「初の女性大統領」を目指したが、出口調査では女性票の54%しか得ていない。民主党が連勝してきた、中西部ミシガン州やウィスコンシン州など「ラストベルト(さびついた工業地帯)」と呼ばれる製造業が衰退した地域も落とした。
inRead なぜか。女性票をつかめなかった理由の一つは、男性指導者と同様の「タフさ」を重視したことだと思う。「男性と同じなら、女性がリーダーである必要はない」。若い女性から頻繁に聞いた。イラク戦争に賛成するなど、タカ派的な面も評判が悪かった。特に若い世代には「男性が戦争に前のめりなら、女性は違う視点で平和を求めるべきだ」と考える人も少なくなかった。
 クリントン氏は有権者の感情に訴える力も不十分だった。「大統領選は、理屈よりも感情を揺さぶる力にかかっている」。ミシガン州の民主党員の地域代表ジャーミー・フィッシャー弁護士(37)は言う。クリントン氏の夫ビル元大統領は「I  feel  your  pain(私はあなたの痛みを感じる)」と短い言葉で感情に訴えかけたという。だが、クリントン氏は自らの政策について、しきりに「私のウェブサイトを見て」と言っていた。フィッシャーさんは「自分の言葉で語れなければ、人の心は動かない」と嘆く。
 確かにクリントン氏の主張は分かりにくかった。私は1月に中西部アイオワ州で初めて彼女の集会に行った。経験豊かで安定感があるとは思ったが、簡潔に説明しろと言われると、思い出せない。
 だが民主党候補指名を争っていたバーニー・サンダース上院議員の集会では、力強い演説と若者の熱狂に引き込まれた。格差をなくし、億万長者に左右されない政治革命を起こす。変革の必要性に関する「なぜ?」の主張が明確で、公立大学の無償化など「何をするか」も分かりやすかった。「バーニーを知ったらヒラリーには戻れない」という声も聞いた。「大企業の献金に頼らず私たちの声を代弁している」「ヒラリーは空気を読んで発言を変えるが、バーニーは不人気なことでも言い続ける」からだという。
 クリントン氏の親友たちに聞くと、「打算ではなく信念で動く女性だ」と言う。だが私には、勝つために信念を貫かないようにも見えた。例えば3月の集会で「鉱山労働者の仕事は消滅する」と発言し激しい反発を招くと、あいまいな対応をした。衰退した産炭地域の復興策として産業の転換が正しいと信じるならそう訴え続け、有権者の心をつかむべきではなかったか。
既成政治不信 声に向き合う時
 過激だが直接的な訴えで有権者の感情的反応を引き出す能力では、トランプ氏に軍配を上げざるを得ない。2月、西部ネバダ州のラスベガスで取材した支持者集会には数千人が詰めかけ、不法移民の流入を阻止するため「(メキシコ国境に)壁を築け!」と大合唱していた。衝撃を受けたが、そんな乱暴な主張に揺さぶられるほど、人々は変化を求めていた。支持者は「トランプ氏は自分の言葉で話す。政治家のように誰かの利益を代表しない」と語っていた。
 変化を求める声は「さびついた工業地帯」の一つ、ミシガン州でも聞いた。長く民主党候補の地盤だったが、自動車産業で栄えた中心都市デトロイトには窓ガラスが割れた廃屋が並ぶ。近郊の自動車工場で働くグレッグさん(55)は「トランプ氏はいいか悪いか分からないが、とにかくチェンジだ」と語った。「まじめに働く私たちより不法移民が優遇されている」という不満も聞いた。
 彼らにとっては、「現状維持」のクリントン氏こそ「最悪の選択」だった。クリントン氏ら既存の政治家や主要メディアなどの「エスタブリッシュメント(支配層)」は、こうした声を理解しきれず、その十分な支持を集めるための対策も示せなかった。来年1月に始動する新政権も含め、突き付けられた既成政治に対する「ノー」に真剣に向き合わなければ、有権者との距離は広がるばかりだと思う。
 ねばねばの床
 西暦2186年が、世界の女性にとって画期的な年になるらしい。男女の賃金格差が、ついになくなる年。「ダボス会議」で知られる世界経済フォーラムが、今の改善ペースのままなら、と仮定し推計した。
 本来は当然の姿なのに、170年も先。あなたも私もあなたの娘もその娘も、死んでいる。
 世界の中でも特に経済面での男女差がひどい日本。マシな方から数えた国別順位で118位だ。女性の平均賃金は男性を100とすると72しかない。60程度だった1990年ごろよりはいいけれど、このところ改善は止まっているという。
 しかも、数字にパートやアルバイトは入らない。働き盛りの35~54歳で、女性のパートやアルバイトは男性の約10倍もいるから、ここを含めたら、平均賃金の格差はさらに広がるはずだ。
 日本女子大の原ひろみ准教授は日本社会に根強い二つの現象に着目している。一つは女性の昇進を邪魔する「ガラスの天井」。もう一つは英語でsticky floorと呼ばれるもの。直訳すると「ねばねばの床(ゆか)」。張り付いて女性がなかなか抜け出せない低賃金の床だという。
 さて、安倍政権が所得税の配偶者控除の対象となる年収(通常は妻の)の上限を、今の103万円から150万円に引き上げるそうだ。税金の心配をせずに、もうちょっと働いていいよ、って。
 だけど、ねばねばは変わらず。床に張り付いたまま、長く働いたから収入が増えたという女性に、「輝かせてあげたよ」なんてとんでもない。
 女性も男性も床からジャンプして、税金もしっかり払って、政治にしっかり注文をつける。それが総活躍では?